14
『散歩。途中でパチンコ店にいる銀ちゃん見つけて一緒に居たアル』
あの時見た神楽は散歩の途中だったのだろうか。近くにパチンコ店なんてあったか?場所も聞いとけば良かった、と沖田は今更後悔した。
――あの傘も綺麗なもんだった。
何より血の臭いを嗅いだ後と刀を見た後の神楽の表情。嫌悪感丸出しだった。
(やっぱ思い違いか)
沖田はフッと鼻で笑う。そう思うと何だかスッと楽になった気がした…と同時に腹が立ってくる。
(次会ったらぶちのめす)
神楽本人には何も罪はないのだけども。
――だとしたら犯人は誰なんだろうか。容姿がよく似た天人の仕業…もしかして同じ夜兎だったりして。
(いやいや…)
あんな脳みそまで筋肉が詰まった奴がまだいるなんて考えたくない、そんな事を思っていると懐の携帯電話が鳴り震える。
取り出して開けてみると土方からだった。
(あ、忘れてた)
「すぐ来いって行っただろ」
「まず労をねぎらってくだせぇ」
青筋を立てる土方の前で沖田はあっけらかんと言った。
「…ご苦労だった」
「狛犬に食われて死ね土方」
「そこでその返しかよ!」
土方はゴホンと咳払いをすると一呼吸をする。
「友田は…本人の希望通り見回り中に賊の手にかかり殺されたという事で家族の方にも連絡する」
もうあのストーカーから聞いたのかよ、沖田は心の中で突っ込む。
「…本題はこっからだ」
「あぁ…まだでしたか」
鬱陶しそうな顔で土方を見る。しかしその土方の顔は真剣で沖田の顔を見据えていた。
こんな顔をしている時はろくな事を言わない。
「お前、あの銃撃事件の犯人心当たりあるんじゃないのか?」
「!」
もう過ぎた疑いだと思っていたので沖田は驚いた。
「あの時すぐ言おうかと思ったんだが友田の事もあったからな。余計な負担かけさせちゃあ不味いんで黙って騙されてやったが…もう必要ないだろ」
「…嫌なヤローだ」
「まだ原田の前で切り出さなかっただけでも有り難いと思え」
沖田は顔をしかめて紫煙を吐く上司を見た。
――さて、どうしよう。
別にもう言っても大丈夫じゃないだろうか。やはり人殺しをするような女ではないし。たまたま同じような武器でたまたま同じような容姿だったんだ。
「…土方さんだけにですぜィ?」
沖田は溜め息を吐きまるで子供が「お父さんには内緒にしててね」のような感じで話し始めた。
「ほぉ…それ、ほぼ確実じゃねーの?」
あれ?言ったの不味かったか?
沖田の中で焦燥感がにじみ出る。
「いやいやいや…土方さん。考えてみてくだせェ。あの女がですぜィ?何が楽しくて殺しなんぞやるんですかィ?頭の中は食い物しか入ってやせんぜィ?そんなのやるぐらいなら赤の他人の家で飯食ってますよ。奴ァ」
沖田は若干早口になって身振り手振りで言う。
そんな亜麻色の子供を見て土方は「プッ」と笑った。沖田は目を丸くする。
「いや、半分冗談だ」
土方は煙草を加えながらニヤニヤと笑う。
「…」
沖田は無言でバズーカを取り出し標的を目の前の上司に向けた。
「待て待て。まぁ…あれだ。俺だってそれなりに世話になった事があるしな。それにそんな奴でもないって事も分かる。だから違うだろっていう気持ちはある」
土方は片手を前にして淡々と話す。沖田はバズーカを下ろし自分の横に置いた。
「でも今の所一番犯人に近い。違うと思うのなら死ぬ気でそれ以上の物証をあげることだ」
「お!担当にしてくれるんですかィ?」
沖田の顔がパッと明るくなる。そんな子供らしい反応をする目の前の亜麻色を見て土方は紫煙と一緒に溜め息を吐いた。
「してもしなくても勝手に動くだろ」
「ご名答」
そう言い立ち上がった。
「あ…一応原田には…」
「…あぁ、黙っておく。殴り込みに行って返り討ちにあってもらっても困る」
灰皿に煙草をすり潰し土方も立ち上がった。
「土方さん」
「あ?」
「何で俺が嘘ついてるって分かったんですかィ?」
首を傾げながら問う沖田に土方はニヤリと笑う。
「心理学」
またか、沖田は嫌な顔をする。
「右脳は左目、左脳は右目と接続されている。右脳は想像を支配し、左脳は記憶を支配する。つまりだ…右脳が動くと目は左に動き、左脳が動くと目は右に動く。目を見据えて問いつめた時、相手の目が左上に移動したら嘘、右上に移動したら真実」
「俺は土方さんから見て左上に移動してたっつー事ですかィ」
「そういう事だ」
戻る