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「友田を斬れ」
「俺?」
次の日の朝、沖田は副長室に呼ばれた。
昨日の後処理を抜け出した説教かと思いきや例の二番隊隊員の粛清命令だった。
「知ってんだろ?永倉から聞いた」
「いや…てっきりその永倉がやるのかと」
沖田は自分にきたのが意外で目を丸くし煙草を吹かす目の前の男を見る。
「仲良いだろ?」
「それなりに。今、中庭で土方専用の落とし穴を一緒に掘ってるんでさァ」
「後で埋めてこい」
青筋を立て手に持つ煙草を曲げる。そしてゴホンと咳払いをした。
「ここ数日でまた妙な事件が勃発して攘夷浪士どころではない。十番隊も全滅。この事があっちに伝わると厄介だ。早急に手を打つ必要がある」
灰皿を引き寄せくの字に曲がった煙草を押しつける。
「都合が良いことに今日二番隊は非番だ。呼び出して斬って来い」
「人と人との間柄を利用するなんで土方さんらしいでさァ」
沖田は肩を竦める。土方は新しく煙草を取り出しながらそんな沖田をちらりと見た。
「でも斬るだろ?」
「そりゃあ…やりやすけど。俺以外には嫌われますぜィ。そのやり方」
「おーおー。大歓迎だ……どわァ!!」
土方が煙草に火をつけようとしたその瞬間、マヨ型ライターから火柱が迸った。
「あ、落とし穴の他にも一緒にライターを細工してみました」
「今すぐ斬ってこい。いっその事仲良く相打ちになってこい」
一部前髪から煙を出しながら土方は青筋を立てる。
「おびき寄せる為にSMグッズ買ってくだせェ。土方さんが買ってるとこ写メに撮りやすから」
「早く行ってこいやコラァァァ!!!!」
「失礼します」
沖田が出て行った後すぐに山崎が入ってきた。
「やっぱり沖田さんに行かせたんですね……あれ?何だか前髪焦げてません?」
山崎は机の中から100円ライターを取り出している土方の前髪を指差す。
「…マヨ型のライターまた注文しておいてくれ」
「ん?その机の上にあるものは?」
「うるさい。用件は?」
青筋を立てながら煙草に火をつけ口に加える。
「えぇーと、昨日の事件の鑑識結果です。まず最初の穴あき死体ですが…穴は大体握り拳大の大きさで傷の周りから微量の天人製の物と思われる成分が検出されました」
そこまで言うと一息吐き若干眉を下げる。
「後…銃殺された隊士達ですが…最初の事件と一緒です。ただ近射創でしたので近くから撃たれたのかと」
土方は山崎の報告を聞き紫煙を吐く。
「天人か…」
「これは天人といえども取り締まっても問題ないでしょう?」
まさか大勢の同志がやられたのに天人に手を出すなと言うのだろうか、山崎は強い口調で問う。
「無論だ」
「ですよね」
山崎は原田と仲が良い。すると必然的に原田が率いる十番隊の隊員達にも付き合いが出てくる。その隊員達が殺されたのだ。天人だろうが何だろうが犯人を許すわけにはいかない。
「近藤さんは遺族の方と?」
「はい。原田と一緒に十番隊隊員のご遺族の方々とお話中です。通夜は6時からですよ。出席お願いしますね」
「分かった」
あの人にはこういう事ばかり押しつけているな、土方は髪を掻き立ち上がる。
「あ、総悟に終わったら俺のところに来るよう伝えておいてくれ」
「分かりました」
「後、マヨ型ライターの注文忘れるなよ」
「…分かりました」
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