友情



藤堂に呼び出され沖田が病院の休憩室に行くと左腕にギブスをしているバンダナ頭と30代ぐらいの太った看護婦が話をしていた。

「凹ちゃん…もうすぐ退院しちゃうのね…」

看護婦はやけに内股で人差し指で藤堂の胸をつついている。

「あ、あぁ…」

藤堂は顔をひきつらせながら後退りをした。

「アタシ…寂しい。また入院してね」
「嫌だし」

巨体を揺らしながらすり寄ってくる看護婦を避ける。またすり寄ってくる、避ける、すり寄ってくる、避ける…


(面白いから見ておこう)

沖田は腕を組んで看護婦と藤堂が机を中心にして回っている様を眺めていた。


「早よ来んかい!」
「あ、気付いてた?」



藤堂は何とか看護婦を追い返し沖田と机を挟み向かい合わせに座る。

「式はいつでさァ?」
「アホ」

真顔で言う沖田に藤堂は机に肘をつき額を押さえる。

「ほい、これ」

沖田は一冊の本を差し出す。表紙には青少年にはよろしくない文字やら絵やら載っていた。

「サンキュー」
「爆弾とか付いてないぜィ」
「は?」

本を受け取った藤堂は沖田の言葉に顔を歪めるが、ふと何か思い出したかのように「あ」と声を出す。

「昨日と今日、またあのチャイナの子と喧嘩してただろ」

沖田から受け取った本を見ながら言った藤堂の言葉に「ん?」と目を丸くする。

「昨日はしたけど今日はしてないぜィ」
「え?銃声が聞こえだぜ。あの音は重くて特徴あるからすぐ分かる」
「…それいつ?」

藤堂は沖田の声色が変わった事に気付き顔を上げる。

「…右之が帰った直後だったから…昼過ぎ」
「昨日は?」
「…夕方…かな……何?」

いつもの沖田の表情ではない事に藤堂は怪訝に思い本を閉じた。

「…」
「……嫌な沈黙」

一ヶ月前の事件が藤堂の脳裏を過ぎたのか顔をしかめる。

「あー…」

とりあえず十番隊の事は言っておいた方が良いだろう。原田にKY発言をしかねない。





「…………は?」

十番隊が全滅した事を聞いた藤堂の動きが止まり目の前の男を見据える。

「マジ?」
「マジ。さすがにそんな嘘はつけねェよ」
「…」

俯いた藤堂は肘をついて頬を手の平で支えながら指でトントンとこめかみを叩く。

「…こんな事言いたくはねぇが…」
「違う」

藤堂が言い終わる前に沖田は否定する。

「根拠は?」
「…」

顔を上げ沖田を見据える藤堂が問う。まだ確かめていない沖田は無言で返すしかなかった。

「…」

藤堂は溜め息を吐く。

「まぁ…俺も銃声しか聞いていないしな…悪い」

そう言うと立ち上がり本を持つ。そしてその本を亜麻色頭にポンと置くと、


「大切な喧嘩友達だもんな」


と笑い沖田に背を向けた。

「え」
「あ、俺、明後日退院だから」

「再入院は勘弁」と言いながら本を持つ手を振り休憩室を出て行った。


「…」

何だか釈然としない。これも何もかもあの女のせいだ。明日こそ会ってはっきりさせよう。

沖田はそう心に誓い立ち上がった。






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