6
黒い車が屯所の前に止まった。門番の隊士達は身を引き締めて敬礼をしている。
車の中から真面目そうな男性と厳つい顔にサングラスをかけた男がでてきた。葉巻を吸いながら屯所を見る。
「とっつぁん」
「おぉ、近藤。最近の江戸は血生臭いねェ」
降りるなり皮肉を言われ出迎えに来た近藤の顔がひきつる。
「世間はもうすっかりクリスマスモードだよ。まだ12月の初めだっていうのに。ウチの栗子も今年は良い男見つけるんだーとか言っちゃってさ。知っているか?あれは本来家族と過ごすもんなんだぜ?つかたかがどこかの神さんの誕生日だぜ?クリスマスなんてなくならねーかなぁ。なぁ近藤?」
額に銃口を突きつけられそんな話をされても何て返せば良いのか、事件の言い訳は考えていたがそんな事の返しは考えていない。
近藤は変な汗をたらしながら両手を挙げる。
「ま、まぁ、とっつぁん。立ち話もなんだから中に入ろう。な?な?」
何とかその場をやり過ごし松平と付き添いの男を屯所内に案内した。
この付き添いの人…どこかで見た事があるような…と男の顔を見ていると近藤の視線に気づいた男がニコリと微笑む。
「あの時はお世話になりました」
「…あぁ!一年前の…」
あの事件か、と近藤は思い出した。
今から約一年前、女が刺殺されるという事件が起こった。その女の夫だった人がこの男である。確か娘も一人いた筈だ。
「あの時は何も力になれず本当に申し訳ない」
「いや、良いんです。犯人を恨んでいないと言えば嘘になりますが…捕まったとしても妻は戻ってこない」
近藤の言葉に微笑みながら答える男。
あの事件は犯人が見つからないまま突然上から捜査中止の命が下されたのだ。そしてお蔵入りとなった。天人が関わっていたのでは、と言われていたが今となっては知る由もない。
「こいつは再婚したんだよ、な?」
「ほぉ!そうなんですか?」
松平の言葉に目を丸くする。男も「えぇ、まぁ…」と、どこか寂しげな表情で頷いた。
何か変だな、と不思議そうな顔をしている近藤に男は言う。
「再婚してから娘とは疎遠状態で…無理もないですが…」
「思春期の娘を持つとこうなるんだよ、な?」
そう言い松平は暗い顔で俯き加減にいる男の肩をポンと叩く。
娘かぁ、俺もそのうち家庭を持って娘が出来て、一緒に風呂入ったり遊んだり、それで「将来パパと結婚するー!」とか何とか言われちゃったりして。でも歳を重ねるにつれて「臭いから近寄らないで」とか「洗濯物一緒にしないで」とか言われちゃうんだろうな。…あ、悲しくなってきた。だったら息子の方が良いんだろうか。まぁ、どちらにせよお妙さん似の可愛い子供なんだろう。あ、俺、今、結婚相手はお妙さんって決めちゃってる?
「…で、あの事件どうなってんの?」
気づけば局長室の前、松平の言葉に近藤は現実に引き戻された。
戻る