家族



ある男が50年前の自分にタイムスリップをした。

自分の姿も50年若返って。

そこで母親の料理を食べたり、父親に説教されたり…平凡な一日を送った。

男はとても幸せだった。涙を流して料理を食べ、嬉しそうに説教を聞いた。

側で見ていたその時代に生きる子供は不思議に思う。

そして別れの時、未来の自分に聞いた。

「何でそんなに泣いていたの?何がそんなに嬉しいの?」

男は言う。

「今がどんなに幸せか分かる時がくる。今を大切にしてほしい」

そう微笑むと男は自分がいるべき時代に帰って行った。







「何?その話」
「そういう話」
「分からない」

私には最近彼氏ができた。五つ上の落ち着いた男性。ずっと憧れていただけの存在だったが、数日前に思い切って告白したら快くオッケーしてくれた。

せっかく今年のクリスマスは彼と一緒に過ごそうと思ったのに、今朝母から滅多に帰って来ない父が一緒にクリスマスを過ごそうとか言い出したらしい。

それを彼に言ったらさっきの話をされた。

「24日は一緒にいよう。25日は家族と過ごしたら良いよ」

まぁ…私ももう子供じゃないんだし…父が忙しくて帰って来れないのは理解しているつもり。それに毎日うるさい母とは違って別に嫌いじゃない。

…この前雑誌に載ってた店でケーキ予約してあるって言ってたしなぁ…。それにきっと父の事だからプレゼント買ってきてくれてるかも。


「そうね。そうするわ」



















「はぁ…」

盛大に溜め息をつきながら黒髪で黒い服を着た地味な青年は江戸の町を歩いていた。

ここ数日の主食は真選組ソーセージだ。それ以外は口にしたくない。

一応優秀な監察と言われているこの山崎退。しかし今回の事件では何だ。現場見て吐くわ、何も掴めないわ…
三番隊隊長の斉藤が手伝ってくれるのは有り難い…が、監察を本職としている自分としては申し訳ないし情けないし。



副長の役に立たないと…


――ドン!


「あ」
「す、すみません!俺、ボーッとしてて…」

出会い頭に女とぶつかり山崎は慌てて尻餅をついた相手に手を伸ばした。どこかの学校の制服で茶色の髪を後ろで一つにくくっている。

なんかギャルゲーのオープニングみたい、何て事を思ってしまう自分がバカらしい。

「…!あ、あなた…!!」
「はい…?」

女は目を見開いて山崎を見る。肩が震え怯えているようだった。

どこかで会ったっけな、と不思議に思うがこんなに人を怯えさせた記憶は全くない。いつだって自分は怯える側だ。

「あの…大丈夫?」
「これ!!」

女はポケットから何か取り出すと伸ばしていた山崎の手にギュッとそれを握らせた。

「え?」

突然の事に目を点にさせる山崎。そんな山崎を置いて女は立ち上がり走り去ってしまった。
山崎は呆然とし手を伸ばした状態でしばし固まる。恐る恐る手を開くと緑色の石が姿を現した。

「な、何これ?」

太陽にかざしてみる。キラキラ輝いているが何かの宝石だろうか。

あの女はいったい…。確かあの制服は江戸東第二高等学校のものだったかな。覚えておく必要はありそうだ。


何だろう…何か胸騒ぎがする。



今回の事件と何か関係がありますように、となぜか緑の石に向かって願うと山崎は屯所へ走って帰った。





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