家族



八番隊の隊員を二件目に残し、土方、藤堂、沖田、山崎の四人は三件目の現場へ直行した。

野次馬をくぐり抜けた先に隊長服を来た小柄な青年を見つける。

「永倉の隊が発見したのか?」
「あぁ、変な異臭がするなぁと思って覗いてみたらこれ」

藤堂が話しかけると永倉はそう言い指を差す。その方向を見ると周りを黄色いテープで張られた古い建物があった。

「行くぞ」
「アンタ、ニコチンで嗅覚やられてやしませんかィ?」
「防毒マスクぐらい用意してくれても良いんじゃね?」
「…もう嫌」

何の躊躇もなく入る土方に沖田、藤堂、山崎は口々に不平を言う。

「お前等…それでも真選組か?士道不覚悟で切腹するかコラ。…永倉、聞き込みしとけ」
「はいよ」

「頑張れ」と永倉は藤堂の肩をポンと叩くと野次馬の中へ去っていった。


中に入ると一、二件目と全く同じ状況。
血、肉片、臓器、骨……人間を構成していた物が部屋中に散らばっていた。

「あ、俺、慣れてきたんスかね。今ならここでミントンできるかも」
「おぉ、良い感じに麻痺してきてらァ」

山崎の目がどこかの万事屋の主人に負けないぐらい死んでいる。

「その勢いで犯人の手掛かりになるようなもん拾ってこい」
「あいよー…」

土方に対してそう返事をした山崎はゾンビのように歩き出した。

「もう一人ぐらい監察方つけてやらねぇと本当に死んじまいますぜィ。あれ」
「…そうだな」









永倉の聞き込みで分かった事は三件目の被害者は老夫婦。とても仲が良いと評判で朝二人で犬の散歩をしていたのを近所の人が見ていた。

そしてこれは後から分かったことだが、殺されたのは老夫婦だけではない。この二人の物とされる体の一部の他にも子供の物があった。DNA鑑定の結果、遊びに来ていた老夫婦の孫だった。



「犬?」
「えぇ、一件目宅も二件目宅も室内で犬を飼っていたようですが散乱した死体の中からは動物の物はなかったそうです。三件目は今調査中です」

犬がやったとでも言うのか、土方は山崎の報告に頭を抱える。

「…この事はマスコミに流れないようにしないと江戸中捨て犬で溢れかえりますよ」

山崎の言葉に付け足すように斉藤が言う。三件目の事件の後、連日の猟奇事件を目の当たりにして死にかけている山崎の補佐を土方は斉藤に命じていた。

「マスコミか…」

今テレビのニュースを独占しているのはこの猟奇事件である。えいりあんの仕業か、物の怪の仕業か、もしかしたら流行り病かもしれない、と各マスコミは勝手に模索する。
一の事を十まで膨らます奴らだ、早く蹴りをつけないと江戸中パニックになるのは目に見えている。

何より江戸を守る真選組の面子が立たない。
もうすでに最近では見回り中でも何をやっているんだ、という庶民からの冷たい目線が突き刺さってくる。

「トシ、ちょっと良いか?」

ふと近藤が部屋へ入ってきた。土方は顔を上げそちらを見る。

「山崎、斉藤、引き続き捜査してくれ。何かあったら藤堂に連絡しろ」
「はいよ」
「分かりました」

二人に指示を出すと近藤と共に部屋を後にした。





「例の事件はどうなってる?」
「全く。攘夷志士を相手にしてた方が楽だ」

フーと紫煙を吐きながら首を横に振る。
近藤はその言葉に「そうか」と困った顔で呟く。

「今日本庁に行ったんだが…上からそれはもう嫌味ったらしくまだ解決しないのか、と言われたよ。トシ達が頑張ってくれているのは百も承知だ。その場は適当にやり過ごしたんだが…」

そこで溜め息をつき土方を見る。

「明日、松平のとっつぁんが来る」
「…マジかよ」

心底嫌そうな顔で近藤を見た。
まだ何も進んでいない捜査を知るなり銃口を突きつけてドスの利いた声で文句タラタラ言われるに決まっている。

「担当は藤堂だよな?」
「総悟もだ」
「総悟も?」
「あぁ、最初の事件からずっと引っ付いてくるんで入れた」

沖田に対して過保護な近藤は心配そうな顔をしている。

「被害家族に同情でもしたんだろう。まだ無茶するような材料は揃っていないし大丈夫だ」


まぁ、それはそれで問題なのだが。


「近藤さん、まだ書類終わってないんだろ。この先まだ増えるぜ」
「あぁ、そんな事トシ達の苦労に比べれば何てことはない。それより明日の言い訳を考える方が大変だ」

せめてあの親父が来る前に何か一つ有力な情報を手に入れる事ができれば…
紫煙を吐きつつ天井を仰いだ。





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