家族



「運が悪いとしか言いようがねぇ」
「そうだねィ」
「よりによって俺の担当の事件がこんな厄介になるなんて…」

近所の聞き込みを終えた藤堂は壁に額を付け溜め息をつく。沖田は藤堂の周りに火の玉のようなものが見えた気がした。

「割り当てた土方さんを恨みなせィ」
「つか何でお前がくるの?」
「興味」

確かに最初はただの興味本位で見に来ただけだった事件。だが今は違う。
藤堂の横で壁にもたれ空を見上げた。

最初の事件から二日後、次は母と子が暮らす家が襲われた。
昼前、仕事に来ない同僚を心配した知人が発見、一件目と同じ酷い状態だった。

「…」
「山崎…死にそうだぜィ。お前もいい加減慣れろ」
「…無理です」

沖田の横では真っ青な顔をした山崎がボーと突っ立っている。

「沖田さんも嫌で外に出たんじゃないんですか?」
「俺はあの臭いが嫌なんでィ。血と糞が混ざっ」
「あぁぁぁ!!!!言わない…で……うぷっ」

山崎はしゃがみこみ口を押さえ嘔吐しようとするが、もう全部出てしまったのか何も出てこなかった。

「夜この辺の見回りはどの隊だったんでィ」
「六番隊。源さんに連絡したけど特に何もなかったらしい」
「あのクソ真面目な六番隊がそう言ってるんなら本当だろうねィ」
「だーかーら!困ってるんだ」

ハァと溜め息をつく藤堂。
これだけ派手な現場なのに目撃証言がないとは不思議な事だ。しかもここは集合住宅の一階。悲鳴や物音が聞こえてもいい筈なのだが両隣の住人にさえ悲鳴一つ聞こえなかったらしい。

「被害者はどんな人だったんでさァ」
「…20年前夫を亡くし女手一つで娘を育ててたんだとよ。娘は年明けに結婚する予定だった」
「娘さんの結婚相手に連絡したのかィ?」
「現場見た途端、錯乱状態になって病院行き」

「そうかィ」と呟くと沖田は亜麻色の前髪をかきあげる。

息詰まってんなぁ、と沖田はそう思わずにはいられない。被害者の為にも何とかしてやりたい。そしてこれ以上被害を出したくない。でも欠片すら掴めていない己の無力さに腹が立つ。
隣で俯いている藤堂だってそうだろう。青白い顔でしゃがんでいる山崎も。

「…一件目の事件で俺が何か掴んでいれば」
「そう思うのならそんなとこでくたばってないでさっさと探ってこい。山崎」

ふと声をした方へ目を向けると土方が煙草をくわえてこちらへ近づいてきた。

「ったく、俺一人現場任せてお前等は外でサボりか?いい度胸してんなぁ?」
「くっさ!近寄らないでくだせェ」
「殺すぞ」

鼻を摘む沖田に対して青筋を立てる。

「つか総悟、お前は見回りに戻れと言った筈だ」
「凹助が寂しいって言うか」
「言ってねぇ」

幸せな家庭を潰した姿の見えない犯人を探し出すまでは引くつもりはない。沖田は誰が何と言おうとこの事件を追うつもりでいる。


――プルルル…


しかめっ面で沖田を見据える土方の胸元から味気ない着信音が鳴る。
チッと舌打ちをし携帯電話を取り出した。

「もしもし、………あぁ?!マジかよ…………あぁ分かった。今行く」

電話を切り「ハァ」と溜め息をつくと藤堂を見た。


「仕事だ」
「え」

沖田と山崎も弾かれたように土方の方を見る。


「三件目、だ」





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