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「…新八?」
銀時は眉をひそめ眼鏡の少年をみつめる。
動かない新八の近くにいる沖田も咳こみながら新八を見上げた。
皐までもが人形を見て止まっている。
「な、何でィ…」
沖田はさすがに意味が分からず肩で息をし口元を拭いながら立ち上がった。
「…あ…」
持っていた木刀を落とし新八の肩が震える。
「お、おい…」
様子がおかしい新八を心配し銀時が近寄ってきた。
ほぼ同時に皐が人形に近寄る。
「旦那!引き戻すチャンスですぜィ!」
「え?」
銀時は弾かれるように沖田を見る。
「何でかは分からねぇが眼鏡が戸惑っているのは間違いねェ!俺じゃあ無理でさァ。アンタとこの従業員ですからねェ」
その言葉に銀時はフッと笑い木刀をしまう。
「沖田君。新八は従業員じゃねーよ」
動かない新八の眼鏡を取り黒髪の上に手をポンと置く。
「家族だ。万事屋ファミリーの一員だよ」
そこでフーと息を吐くとニヤリと笑う。
「もうそろそろ帰る時間だぜ、新八」
――その刹那、新八の体から黒い煙が追い出されるように上へ立ち上る。
「…」
「…新八?」
銀時はひょいと新八の顔を覗き込む。パチパチと瞬きをしている目はもう普通に戻っていた。
「…さっすが…旦那。土方さんとはやり方が違いまさァ」
沖田は感心し目を見張る。
あれはあれであの二人らしいけど、と改めて思うわけだが。
「…えーと?」
新八はというと状況が掴めず呆然としていた。
「おぉ!新八!お帰りー」
「え?は?…あ!眼鏡!」
銀時が自分の眼鏡を持っているのに気付き取ろうとする。
「ん?あぁ、はい」
「何で銀さんが持ってるんですか?というか皐さんは?」
眼鏡をかけ新八はキョロキョロと辺りを見渡す。銀時はハァと溜め息をつき沖田の方へ近づいた。
「…こうも何も覚えてないとちょーっとイラっとしちゃうな」
「後で言ってやりなせィ。気絶するかも」
沖田は耳打ちをしてくる銀時の左脇腹をピンッと指で弾く。「痛っ!」と脇腹を押さえうずくまった。
「…こんのぉ…」
「皐さん…それ…」
涙目でうずくまる銀時を余所に新八が未だ動かぬ皐に近寄る。
「まだ持っててくれたんだ」
そう言い新八は人形を拾い上げる。それをパンパンと軽く汚れを払うと変わり果てた皐の目の前まで人形を差し出した。
「君のサンタさんまだ来てないよ」
赤い目を見据える。
「君は愛されている」
「皐!!」
向こうの方から男性の声がした。
三人と皐が一斉に声の主を見る。
「五十嵐さん…!」
沖田が驚き目を見開いた。
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