家族

43

少女はこちらに気付き近づいてくる。


「…」


無表情で近づいてくる少女に沖田と銀時は身構える。新八は未だ信じられないといった顔だ。


「!」

ふと少女が微笑んだ。
その辺りにいる何ら変わりない普通の女の子のように。


「…私も」

少女が口を開いた。


「私もあなたみたいな前向きな子が傍にいたらこんな事にはならなかったのかしら?現実を受け止め前へ進もうとする強い心があればこんな事にならなかったのかしら?」

少女は新八を見つめ立ち止まる。

「毎日口うるさいお母さん、何回いなくなればいいと思った事やら。でもいざいなくなったらこれよ。自分を悲劇のヒロインみたいに思っちゃってさ、しかも何で私じゃなくて滅多に帰って来ないお父さんに助けを求めたのかとか今更おかしな嫉妬抱くし、私にかけても携帯の電源切ってたくせに。笑っちゃうわよね」

少女は沖田を見る。

「犯人を見つけてくれるって言ったのに…結局見つけてくれなかったわね。若かったから大丈夫かな、とは思ったけど…でもちょっとは期待してた。何で捜査止めちゃったの?お父さんから聞いた時は愕然としたわ…犯人が捕まってもお母さん生き返るわけじゃないし…所詮あなたにとってどうでも良かった事だったのかしら」
「…」

沖田はその事に関しては負い目を感じている。胸がつまり言葉が出ない。
新八がそんな沖田を庇うように口を開く。

「そ、それはあなたのお父さんが」
「お父さんもお母さんを忘れてしまったかのように再婚なんてしたのよ。事件から一ヶ月も経ってなかったわ。あんなに最期まで助けを求めていた人だったのに…どうでも良かったのよね……そう…もうどうでも良いのよ…どうでも…」

少女はまた一歩また一歩と前へ出る。

「この石…知ってるでしょ?生き物みたいな石」

そう呟き緑色の石を沖田達に見せるように前へ出す。

「幸せな家族みんな死ねば良いのにってこの石に言ったら本当に殺しに行ってさ。気に入ったみたいで二件目、三件目と行っちゃって…さすがに怖くなって…たまたま会った真選組の人に押しつけてやったのに…」

山崎の事だ。

「また戻ってきたの。だからもう…ほんとどうでも良くなってきて…何で私だけこんな事に…なんて…………」


「!!」


皐の肌が段々灰色になっていく。


「…みんな死ねば良い…死ね…死ね死ね…」


目が赤く光る。


「死ね死ね死ネ死ネ死ネシネシネシネシネシネ」


まるで壊れた人形のように口がカタカタと揺れ涎を垂らす。



新八が目を見開き後退りをする。

「ぎ、銀さん…」
「…おやおや…どこのホラー映画ですかぁ?」

木刀を持つ銀時の顔に何粒もの汗が頬を伝わり落ちた。



「キシャアァァアァァ!!!!」

人とは思えない声を上げ右爪が刃物のように伸び沖田を目がけて突き刺そうと走る。


「!!」

早い。電光のような突きを左へ身を開いて避けた。

左手にあの緑の石を握っている。やっぱりあの赤い石無理矢理奪ってこれば良かった、と後悔した。

皐はその左手を沖田の足下に殴りつけた。地面から握り拳ぐらいの大きさの岩が数個生まれ沖田を襲う。
咄嗟に腰を落とし腕をクロスして顔と胸をガードする。その腕を容赦なく岩が襲った。

「っ!!」

腕に激痛が走る。皐が追い打ちをかけようと爪を振り上げた。
皐と沖田の間に銀時が木刀を構え入る。
爪を受け止めそのまま競り合いとなった。

「ぐぬぬ…!!」

人並み外れた力で押され銀時の両手に力が入る。相手は片手だ。それだけで皐は化け物と化してしまった事は一目瞭然。

沖田は何とかあの石を取ろうと身を低くし銀時の腰辺りから皐に向かって上斜め方向に体当たりをした。

突然の下からの衝撃に皐の体は仰向けに倒れる。沖田は皐の左手に向かって手を伸ばした。

「!」

石に手を近づけると黒い煙が皐の左手を覆う。沖田は危険を察し手を引いた。


『ジャマヲスルナ…』


低い声が聞こえた途端、黒い煙が大きくなる。沖田はそれを避けるように後方へ飛んだ。


「あれが前言ってた黒い煙?」
「そうです。地味な奴が襲われた時はいなかったので、どう攻撃してくるか分からないですけどねィ」


仰向けに倒れている皐の左手から黒い煙が立ち上る。

上空で一つの固まりになると少し離れた所で立っていた新八を襲った。


「うわぁぁ??!!」
「新八!!!」

銀時が駆け寄るが間に合わず逃げようとした新八の体に黒い煙が吸い込まれた。


新八の足が止まると同時に銀時の足も止まる。

「…お、おい、新八?」

眼鏡の奥にある目が赤く光った。





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