家族

41

「おぉ!原田!見舞いありがとうなぁ!ザキも今回よくやってくれたらしいじゃないか!」

原田と山崎がいる部屋に近藤が入ってきた。続いて土方が入ってくる。

「おかえりなさい、局長、副長。お茶入れますねー」
「ウッス」

山崎は立ち上がり原田が二人に手を挙げる。土方が机の上にある赤い石を見てフーと紫煙を吐いた。

「…それか」
「凹助が命懸けで取ってきたもんスよ。…あれ、これって窃盗罪?」
「五十嵐さんがうまい事言ってくれるって」

山崎がお盆の上にある二人分のお茶を机に置きながら原田に言った。

「あれをパスワード無しで取ったら防犯センサーが作動してロボットが襲ってくる仕組みだったようです」

お茶を置き終わり土方を見据える。

「普通なら取る前に罠があるかどうか調べるんですがね。そのまま取っちゃったんでしょうねぇ」

山崎は眉を下げ溜め息をつく。

「もう懲りて潜入捜査なんてしないだろ…で、何だったんだ?これは」

土方は机の上の灰皿を近寄せ煙草の灰を落とした。

「五十嵐さんが見せてくれた紙によりますと、緑の石にこれを使って衝撃を与えると砕けるらしいです」

「どんな仕組みになってるんだ?」と近藤が腕を組み眉をひそめ呟く。

「肝心の娘の居場所が分からないんだろ?」
「えぇ…まぁ。事が起きるまで待つしかないんでしょうかね」
「起きても手は出せないがな」

土方は溜め息と一緒に紫煙を吐く。少しの間何か考えていたが、ふと何か思い付いたように顔を上げた。

「…衝撃…」
「どうしました?」
「この石、変形させても平気か?」
「え…ええぇぇぇ!!!!!!」

山崎は土方の言葉に驚きの声を上げる。

「へへへへへ変形って…いったい何に…っていうか危険です!!無理です!!」
「効果なくなっちまうかもしれませんぜ」

原田も驚愕している。
土方は眉をピクッと上げ煙草を噛みしめた。

「あぁぁん?!やってみねぇと分からねーじゃねぇか」
「いや、だったら何で平気かとか聞いたんですか。どんな仕組みになってるかも分からないのに博打が過ぎますって!」
「このままだと衝撃与えようとしても簡単にはできねぇだろ。良い考えがある」

そう言うと土方は赤い石を掴み取り部屋を出て行く。

「ちょっ!!副長ォォォ!!」

山崎が慌てながら後を追いかけて行った。


「あらら…」と原田が部屋の外を見つめ呟く。

「いやぁ、賑やかで戻ってきたって感じがするなぁ!!」
「えぇ!言うべきとこはそこっスか?!局長!!」





赤い石を持って縁側を歩く土方の後ろを山崎がついて行く。

「ふくちょー…考えなおしましょうよぉ…。大体何に変えるんですか?」
「…」

え?無言かよ、と心の中で山崎は突っ込む。

「…というか…副長も事件解決に協力する事にしたんですね。中止だってあれだけ言っていたのは副長なのに」

ピタッと土方の足が止まる。


…何で俺の口ってこうも軽いかな。


山崎の足も止まり顔からは冷や汗が流れ落ちた。

「五十嵐の話は聞いたんだろ?」
「え?えぇ…まぁ…」

あの研究所から脱出する際の車内で一年前の事件と今回の事件に関する話は聞いた。

「副長も聞かれたんですか?」
「あぁ、今朝斉藤から今回の事の詫びと一緒にな」
「へ?だからですか?……いや、俺に研究所に行けと言う前は知らなかった筈…副長なら誰かが潜入時にヘマしたって見捨てるでしょう。…松平のとっつぁんと何を話したのですか?」

山崎が土方の顔を見据える。


「家族愛だ」


「…は?」

山崎は自分でも驚くぐらいの素っ頓狂な声を出した。


「お前は五年後ここに居ると思うか?」
「…は?」


ダメだ、「は」しか言っていない。つか言えない。
ここに居る?…まぁ…クビになる事はあると思うよ。うん。

「えーと…」と、山崎は必死に混乱する頭の中を抑えようとした。


「俺は五年後ここに居ると思うか?」
「…え?」

山崎は目を丸くしてパチパチと瞬きをする。


「近藤さんや総悟は?他の奴等かってそうだ。俺らは命張ってっからな、数十年生きるとかそんな贅沢は言わん。今の状態が当たり前でそれがずっと続くとか思わねーよ。何かにつけてバカ騒ぎやってるのは今だけかも知れねぇ。だからこそ今を大切にするんじゃねーか?」
「…」
「…とっつぁんの話を俺らに例えるとこうなる。…そんな話をしただけだ」


土方は呆然とする山崎に背を向け「ほんと、世話のかかるガキだ」と呟きながら歩き出す。



「大家族ですねぇ…」

山崎はふっと笑うと土方の後を追った。





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