家族

40

「近藤さん確か今日退院ですよねィ?」
「あぁ、そんな長い間ゆっくりしていられんしな」
「じゃあ凹助と入れ替わりみたいなもんですねィ」

病院の喫煙室で沖田は頬杖をつきながら溜め息を吐く。

「珍しくへこんでいるなぁ、総悟」
「そりゃあ勝手な奴の為に勝手な行動をして勝手に瀕死になってもらったらなぁ?総悟」
「勝手に死ね土方」
「ほぅ…?」

土方は煙草片手に青筋を立て顔をひきつらせる。悪態をつく沖田に近藤は真剣な顔をし「コラ!」とたしなめた。

「総悟。今回は結果的にとっつぁんが多目に見てくれたようだから良かったものの今後命令違反は厳しくいくぞ。一人の勝手な行動の為に最悪真選組が解散させられる場合だってあるんだぞ。何十人職をさまよう事になるか分かってるのか?隊士達の中には家庭を持っている者もいてだな…」

近藤の説教を顔を歪めながらも大人しく聞いている沖田を見て、やっぱりこの人からが一番効くな、と土方は思う。

「でも総悟は優しいな。五十嵐さんの家族を助けたいんだろ?あんな化け物相手によく頑張っているな。攘夷志士とは勝手が違って難しいだろう?」

そう言い近藤の大きな手で亜麻色頭を撫でる。褒めて労をねぎらう事を忘れない。
撫でられた沖田は少し頬を赤らめ「またそう子供扱い…」と俯き呟いた。

さすが父親代わりの男、この人にはかなわないな、土方は鼻で笑った。


「藤堂の様態は?」
「まだ意識はないがもう命に別状はないようだ」
「そうか…良かった」

近藤は土方の言葉にホッと安堵した。

「あぁ、それと五十嵐さんは例の石の事で屯所にいる」
「黒幕は親父さんの浮気相手でさァ」

沖田の言葉に土方は「ん?」という表情になる。

「一方的にあっちが押してきたんじゃないのか?…で、奥さんが邪魔だから殺したんだろ?浮気か?それ」

沖田は目を丸くする。そういやラブホに入ったのを見た時は事件後だったな。でもいくら娘を人質に取られたからって人殺しを野放しにするかな、しかも傍に置くなど。

沖田は窓際で煙草を吸っている土方を見上げた。

「土方さん」
「なんだ」
「浮気ってどこまでいったらそうなると思いやす?」
「…人それぞれだな」
「きっと土方さんならマヨネーズからケチャップに変わっただけで浮気になるんでしょうねィ」
「…」
「…何でそこで黙るんですかィ」

「失礼します」

喫煙室のドアが開く。隊士が敬礼した。

「手続きが完了しました」
「おぉ、ご苦労さん。さぁて、六日ぶりの屯所へ帰るか」

近藤は立ち上がり背伸びをする。

「書類が溜まっているからよろしく」
「えぇー…」
「総悟は今日から昼勤だぞ。とりあえず五十嵐親子の事は山崎と斉藤に任せておけ」
「えぇー…」

頬を膨らませふてくされる上司と部下を見て土方の顔が自然とひきつった。





机の上にある赤色の石がペンにつつかれゆらゆらと揺れる。

「ちょ…原田。迂闊に触らないでくれる?」
「お前に言われたくはないなぁ」
「すみませんでしたぁ!!」

一生あの時の事をいじられるのだろうか、山崎は溜め息を吐く。

「でもこれを使えば緑の石の力を消す事ができるんだろ?」
「…らしいね。緑の石にこれをぶつければ砕けるらしんだけど………だから刺激さすなって」

山崎が原田のペンを取り上げる。
原田は「えー」と口を尖らしながら頬杖をつきトントンと指で机を叩く。

「そういやぁ…五十嵐さん帰ったのか?」
「うん。奥さんにバレると大変だからって」
「女は怖いなぁー。嫉妬心で人殺しちまうんだぜ?」
「男でもいると思うけどなー」


「ただいま!!」

玄関から威勢の良い大きな声が聞こえた。

「お、局長」

原田は玄関の方を見る。近藤の声に続いて「おかえりなさい」「大丈夫ですか」と隊士達の六日ぶりの局長を迎える元気な声が聞こえてきた。

やはり局長がいるだけで屯所全体に活気が出る。そういうオーラを持つ男なのだ





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