家族



あの猟奇的な事件から何の手掛かりもなく一日経った。

「あの家族に対して怨みを持つ…という人はいそうにないですね。近所付き合いも良いし、進んで町の役員もしていたらしいです。無差別か何かですかね」

というか人間の仕業じゃないような、と山崎は思ったが言葉には出さず現場を思い出す。…気持ち悪くなってきた。

「質が悪いな」

山崎の報告を聞き土方は紫煙を吐く。
無差別だったらまだ同じような事が起きる確率が高い。怨恨による犯行の方が有り難いのだが。

「引き続き調査してくれ」
「はいよ」

今の所はいつもの見回りを強化するぐらいの事しかできない。ボリボリと頭を掻き見回り表を手にする。

書き直そうかとペンを取り出した。あの子供がもう少し真面目に仕事してくれればな、と考えていると「ジングルベール、ジングルベール」という歌声が聞こえてくる。
声の主が悩みの種の張本人だと思うと頭が痛くなってきた。

その歌声は土方がいる副長室に向かってくる。

「土方さーん。今年のイルミネーションどうしやす?ラブホに負けないぐらいパァーッとド派手にしやしょうや」
「俺はお前の頭の中をどうにかしたいよ」

襖を確認なしに開けて入ってくる子供に「ハァ」と溜め息をつく。振り返ると電球を体中に巻き付けている沖田がいた。

「近藤さんはやる気満々でしたぜィ」
「どうせどこかのゴリラ女に見せたいんだろうよ」
「屋根に観覧車みたいな飾りしたい」
「お前がその電球巻き付けたまんまの格好で屋根に立ってろ」

土方は適当に流すと再び机に向かい見回り表とにらめっこを始める。沖田はジャラジャラと電球同士が当たる音をさせながら土方に近寄り手元をのぞき込む。

「見回り表ですかィ?」
「あぁ、あんな事件があったからな。強化しねぇと」
「あ、どうせなら俺のとこ少なくしてくだせェ」
「俺の話聞いてた?強化したいんだけど?」

この子供の相手をしていると頭痛い。頭を抱える土方。

「うわぁ…クリスマスの夜は終と杉原さんと源さんの隊かぁ」
「一番文句を言わなさそうだろ」
「土方さんが1人でやれば誰も文句言いませんがねィ」
「…もう向こうに行っててくれるか?」

全く仕事が進まない。苛々しながらペンで机をトントンと叩く。

「…土方さんはあれ人間がやったと思いますかィ?」

…と、真面目な声で言ってきたものだから叩いていたペンもピタリと止まる。
あれとはあの猟奇事件の事だろう、土方は黙ってジッと沖田を見据えた。

「…今山崎に調べさせている」
「俺にはできねぇや」
「そらそうだろうな、あんな顔色悪くしてりゃあ」
「おや、土方さんはできるんですかィ?」

怪訝な顔をし溜め息と共に紫煙を吐き出した。机に肘をついてトントンと自分の頬を叩く。

「藤堂が言っていたぞ。また沖田が勝手に動きそうだって」
「好奇心旺盛な若者なんで」
「…近藤さんに迷惑かける事は止めてくれ。いつもお前の好奇心の後片付けはあの人だ」

そう言われムッとした表情になる。この子供は近藤さんという名には弱い。

「山崎が何か持ってくるだろ。話はそれからだ」

何も言い返してこない沖田に向かってそう言い放つと机に向かう。

凶器は未だ見つかっていない。獣に食い荒らされたような現場。ただのえいりあんならあのいつかの星海坊主のようなえいりあんばすたーに任せれば良いだけだが。

そんな簡単な事ではない気がしてならない。

全く目撃証言もなく山崎からの有力な情報がないまま、



二件目の猟奇事件が起こる。





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