家族

36

異例中の異例だなぁ、潜入した人を助けに行くなんて。

山崎は高くそびえる塀を見て思う。



『お前にしかできない仕事だ』


と、上司に電話越しで言われたのは数時間前。
松平に呼ばれた後だったので最悪な内容ではなかった事に安堵したのはつかの間。


『幕府が管轄する研究施設知っているか?』


知っている事は知っている。思い付く限りじゃあ三ヶ所ぐらいか。そう伝えると


『斉藤達が行きそうな所へ行ってこい』


――え?


頭の中が真っ白になっている一瞬の間に電話を切られる。



松平とどんな会話をしてそうなったんだろう。


しかもまたそんな抽象的な…


(あんな石どこで手に入れるんだ。どう考えてもこの世のもんとは思えねぇ)
(…天人が作った物だろうね。そうとしか)


数日前の藤堂と斉藤の会話を思い出す。



そんな物が作られていそうな研究所…

通常兵器、生物兵器、化学兵器、核兵器…どれも当てはまる感じがしない。


あそこか。錬金術やら呪術やら…ともかく非現実的な事を研究している施設がある。人間のクローン開発もしているとか何とか…一番謎が多いところだ。




‘夢幻’

この塀の先にある。

そして地面には少し新しい足跡が二人分。


「よし」

山崎は小さな声で気合いを入れると慣れた手つきで鉤縄を投げる。

クイクイと縄を引っ張り引っかかった事を確かめると素早く登っていく。塀の上へまで登るとキョロキョロと辺りを見渡した。


(あ、やっぱり)


斉藤が入れ替えたのであろう赤外線センサーのダミーがある。ちなみにこの作業は本物のセンサーを止めておく人と入れ替える人、二名必要だ。まず一人は高温を発する機械でセンサーを鈍らせる。もう片方がその間に変えてしまうという方法だ。本物は後で壊しておく。このダミー入れ替え策は見た目はもちろんだが逃げ道確保の意味もある。

こういう事になれている斉藤が入れ替え藤堂は鈍らせる役をしていたのだろう。

(監視カメラの隙をついての早業…さすがだなぁ)

しかし最近は高温に強いセンサーが開発されたと聞く、また違う方法を考えなくてはな、と思いながら塀を乗り越えた。


まぁ…自分はたまに自動ドアにすら反応されない時があるのだが。



さて、潜入するには二つの方法がある。


一つは屋根裏などを使い忍びのように潜入する方法。

もう一つは何かに扮して潜入する方法。



山崎は考える。

二人で行っているのだ。しかもその片方は自分が知っている限りじゃあこういう事は未経験。討ち入りもそうだが、場数を踏む事は大事だ。自分だったら一緒には行かないな。主にアイコンタクトになるだろうし相手が不慣れだと意志が伝わりにくい。


藤堂さんが忍び込んで斉藤さんが何かに扮していると見た。



一番危険ぽい藤堂よりまず斉藤と会った方が効率が良い。山崎も何かに扮する事にした。

動きやすく特定されにくい…警備員かなぁ。清掃員っていってもこういうところの清掃ってロボットがやるし。


あんな石の情報は警備員が入れる場所にあるとは思わないけど、まず施設内に入ることが先決。




山崎退、七変化。


普通ならそこらの警備員を気絶させ服を拝借するが、この山崎退には不要。

自分が増えていたって「あれ?こんな奴いたっけ?ま、いいや」と流されるのが常だから。




…長所だ、と思っている。



(さて、どこにいるのかな)


山崎は通り過ぎる研究員に敬礼しながら施設内に入っていった。





※言い訳タイム
赤外線センサーのくだりとか捏造かつ妄想です。

一応軽く調べたのですが…そんなの載ってるわけないわな。
真正面からの接近も鈍くなるとは書いてあったのですが(07年の情報)我が妄想脳ではこれが限界でしたorz


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