家族

34

今の真選組はバラバラだな、土方は思う。

隊長格が一人の男の為に勝手やってるのだ。ここで局中法度違反で全員切腹だ、と言えばどれだけ楽か。


――ならばなぜ言わない?真選組に仇となる者は誰であろうと消す、それが鬼の副長のやり方ではなかったのか。



そんな事を考える度に思い出すのは武州に居た頃。身分や組織とか関係なしに竹刀を振り回していたあの頃。近藤に肩車をされた沖田が自分の髪を引っ張る。それをたしなめる沖田の姉ミツバ。豪快に笑う近藤。


あの頃に戻りたいか?――否、刀を取り戻してくれた近藤への恩に報いる為、真選組という組織を護る為、いつもバカやっている奴らの居場所を護る為に時代と戦う、そう決めた。



「よぉ、土方」

まさか今日も会う事になろうとは思いもしなかったヤクザ風の上司が土方に声を掛けた。

「とっつぁん」
「向こう行かねえか?」

松平は土方の返事を待たず歩き出す。土方も無言でついて行った。

「昼前に、自分とこの研究所に鼠が入り込んだみたいなんだがアンタとこの奴じゃねーかっていう電話があってな」

歩きながら松平は話す。

「まさかいくらバカが多い組でも幕府の天人が管轄する研究所に潜入する大バカはいないわーとは言ったんだがそれでも調べろって言うんよ」


歩くのを止め懐から拳銃を出し銃口を土方に向けサングラスの奥から目を見据える。


「一応聞くが、昨晩から姿を見ない隊士はいるか?」
「いや、今日も呑気なバカばっかり揃ってたぜ」


土方は松平の問いに間を空けず答えた。


「なら今から屯所に行き全員集めて点呼をとる、平気か?」
「あぁ」


短く返事をした土方に松平は鼻で笑う。向けていた銃口を降ろすと土方に背を向け遠くを見た。


「…今日、朝起きたら栗子がやっぱりクリスマスは家族と過ごすとか言ってくれてよ。いやぁ嬉しいねぇ」

突然娘の話かよ、と土方は目を丸くする。

「今は全くないが、小さい頃は一緒に風呂に入ったなぁ。一緒に風呂で10数えたり、体流しっこしたり…20年後別のヤローが同じ事をするかと思うとそいつに殺意沸いちゃったりしてたね」

松平は銃を上へ放り投げまたそれを取る。

「でも一生嫁にやらない訳にはいかねえじゃねーか。俺だって孫の顔ぐらいみてーしよ。…だからな、クリスマス一緒に過ごしてくれるっつーこの今を大切にしたいわけ」

くるくると銃を回すと土方の方を見る。

「思春期の娘を持つ父親は誰よりも未来の娘に不安を持ち誰よりも未来の娘の幸せを願う。父親に限った事じゃねぇけどな。親なら誰しもそうだ」

松平は土方に近寄る。

「ある男が俺に言ったわけよ。娘を助けて下さいってな。オジサンそういうの弱いのよ」

髪をボリボリと掻き半ば呆然としている土方の肩を叩く。
そして手にしていた銃を土方の懐へと入れた。


「優しいオジサンサンタからクリスマスプレゼント」
「…これはまた物騒なプレゼントで」


ずしりと土方の懐が重くなる。
松平は土方から離れると来た道へと歩き出した。

「つーことだ。オジサン今から忙しいの。クリスマスパーティーの準備をしなきゃいけねぇ。屯所に行くのは止めだ」

松平は土方に背を向けたままそう言うと手を振り去って行った。


「…」


ある男とは五十嵐の事だろう。そして娘とは…

自分も親になったら分かるのだろうか、なんて柄にもない事を思った自分を笑う。




――さて、大バカ共をどうするか。




土方は携帯電話を取り出すと忠誠心だけは立派な監察に電話を掛けた。





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