家族

32

町の食堂で沖田は頬杖をつきながら魚の小骨を取る。もし近藤がいたのなら行儀が悪いとたしなめられるだろう。しかし傍にいるのは小柄な青年とハゲ頭。二人とも困惑した表情をしている。


「確か研究所には昨日の2時過ぎに行ったんだぜ。いくら何でも遅すぎだろ」

永倉は眉をひそめコップの中にある残り少ない牛乳を揺らす。

「うーん…」

原田は時計を見る。昼の1時半、もうすぐ丸一日になるのか。

お椀に残ったわかめを箸で取り口に運ぶ。

「山崎が言うには潜入捜査っつーのは長い時は一週間かかるっていうしなぁ」
「爺さんが研究所に鼠が入ったとか何とか言ってたから…何かあったのかねィ」

だからと言って潜入捜査中の者に携帯電話で連絡を取るなんて事はできない。

「副長、感づいてきてるぜ。ありゃあ」
「なら消せばいい」
「それをできるのはお前だけだ」

原田は瞬時にバズーカを取り出してきた沖田を止める。


朝の集会時には夜勤以外の隊士全員が集まる。爆睡していた沖田、非番の藤堂、昼勤の斉藤がいなかった。沖田の寝坊はいつもの事、藤堂なら昨晩から遊郭に行ってるんで朝帰りじゃないんですか、とも言える。だが、今まで一度も集会に遅れた事もなければ出なかった事もない斉藤がいないとあれば土方でなくとも不思議に思うだろう。周りがざわつく中、原田、永倉の二人はもっぱら黙秘していた。


「やっぱり潜入捜査経験0の凹助には無理だったかー?」
「初体験であそこは難易度高すぎたねィ」
「永倉、沖田。悠長に構えてる場合じゃねぇぜ。副長から何も連絡がねぇって事はまだ見つかってない、と思うが…もし上にバレたとなれば…」

原田は親指を立てて自分の首を左から右へ切る真似をする。

「…そういう事になるだろうねィ…」


先程から骨ばかり取って身には手をつけていない魚を見つめつつ溜め息を吐く。

自分の為に危険な場所へ潜入してくれているというのに何もせずこんな所で飯なんて食っている場合ではない。このまま本当に帰って来ないとなれば自分も…

…と、思ったが隣にいる永倉が袖を引っ張りこちらを見据えブンブンと首を横に振っている。


…何でみんな俺の行動が分かるんでィ。



――プルルル



「わぁ!」

と、着信音に吃驚する原田と永倉。

「…何をそんなにビビる必要があるんでィ」

沖田は目を細め軽蔑した目で二人を見ながら自分の携帯電話を取り出した。

「い、いやだって、副長からだったら…」
「誰から?」

終か凹助だったら良いなと思ったが、液晶画面を見ると‘坂田銀時’と映っていた。


「旦那」
「万事屋の?」
「そそ」

沖田は「はい」と電話に出る。

「俺らじゃ何もできねぇし、信じて待てっつー事だよな」
「そうだな」

二人が会話する中、沖田は真剣な顔で電話の主と話している。

「ちょいと万事屋行ってきまさァ」

電話を切り二人に向かって言うと「おばちゃん、この魚猫にでもあげてくれィ」と立ち上がり食堂を後にした。




「あら、美味しくなかったのかねぇ…」

と割烹着姿の女性は眉を下げながら沖田が残した魚を見ながら言う。

「いや、アイツの中で今週は猫愛護週間なんだ」

永倉はそう女性に言うと残った牛乳を飲み干し「ごちそうさま」と立ち上がる。

「つかアイツ代金思い切り俺らに払わすつもりで出て行ったな」
「右之よろしくー」

永倉は手を振ると足早に店を出て行く。

「…」

原田は無言で財布を取り出すと三人分の昼食代を払い店を出た。





戻る

- ナノ -