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ベットの上で寝そべりながら携帯電話をいじる。今年入ってから学校なんてたまに顔を出すだけで不登校状態。その今年も後一ヶ月半ぐらいで終わる。留年確実ね。
「何がクリスマスよ…無くなっちゃえばいい。そんなもの楽しみにしている家族も消えればいい」
携帯電話の掲示板サイトではクリスマスまでに恋人が出来ただの出来ないだの子供の頃サンタをいつまで信じていただのまだ一ヶ月以上先の事が盛り上がっている。
『ホォ…主ハクリスマストヤラガキライナノカ?』
「嫌いよ。何を躍起になる事があるのかしら」
数日前ベットの上にあった石に向かって喋る。
私を主と呼んでくる変な石。何か父の再婚相手から話し相手になるよう頼まれたらしい。…天人って頭おかしいのかしら。
「死ねばいいのよ。お母さんを助けなかった父も。捜査をばっくれたあの子も。クリスマスなんぞ楽しみにしている家族も」
そう言うと緑色の石が光った。
「神楽ちゃーん?」
新八は暗い道を桃色の名前を呼びながら歩く。
沖田について行ってから門限の7時になっても万事屋に帰ってこないので銀時と探しにでかけた。
「どこ行っちゃったのかなぁ…」
困った顔で溜め息を吐く。息が白い。
もう12月の半ば。もうすっかり寒くなり夜になれば尚更だ。
神楽ちゃん、暖かくしていたっけな、ご飯も食べないで平気だろうか、何処かのお宅に忍び込んで食べ物を強奪していないだろうか。沖田さんについて行ったって事は、もしかして真選組屯所まで行っちゃったとか?…器物破損で訴えられても僕は知らない、知らないよ。
…江戸はこんな状況だし危ない目にあってなきゃ良いけど。
「あ」
新八は家と家の間に座り込んでいる少女を見つけた。一瞬神楽かと思ったが違う。
しかしこんな夜更けに女の子一人では危ない。新八は少女に近づき声を掛けた。
「ねぇ」
「!!」
少女はビクッと肩を揺らして新八を見た。茶髪で後ろで一つにまとめている。自分と同い年…いや、少し上か。
「ご、ごめん。ビックリさせちゃった?」
慌てて後ろに下がる。…が、すぐ少女に近づき隣に座る。
「どうしたの?家に帰らないの?」
新八は優しく少女に問いかける。少女は俯くと小さな声で話し始めた。
「あなた…過去に戻りたいとか思わない?」
「え?」
新八は唐突すぎる質問に目を丸くする。
「うーん」と少し考えた。
「…思った事はないなぁ。今が楽しいし」
死んだ魚のような目をした銀髪が居て、大飯食らいの桃色が居て、気が強いのか弱いのか分からない姉上が居て、何かと腐れ縁の真選組が居て……みんな個性が強すぎて一緒に居ると楽しい。数年前とはまた違った楽しさに新八は十分満足していた。
「その今が壊されたらどうする?」
新八の思考が中断する。
――壊されたら?
つまりどういう事だろう。この滅茶苦茶な日常が当たり前すぎて壊されるという意味が分からない。
「お母さんがね…死んだの」
あぁ…そう言う事か。
クリスマス前に可哀想に。だからこんな所で一人で座っているのか。
「死んだのを誰かの所為にしたの。恨んだの。そしたらとんでもない事になっちゃった」
とんでもない事って何だろ?この子の話、抽象的すぎて分からない…
分からないけど…なぜかこれだけは言える。
「君の所為じゃないよ」
「え?」
少女の目が見開き新八を見る。
新八が微笑む。
「お母さん何が好きだった?」
次は新八が少女に聞いた。
「…えーと。派手好きでね。何かとパーティ開いてた」
「そっか!じゃあさもうすぐクリスマスだし、お母さん囲んでパーッ!と派手に騒ごうよ!」
少女が目を丸くして瞬きをしている。
「お墓にイルミネーション飾っちゃったら?派手になって喜ぶかも……あ、いくら何でも怒られるかな…」
新八はアハハ…と苦笑しながら頭を掻く。
そして「あ」と声を上げ懐から何かを取り出した。
「これ」
新八の手には紐がついた小さなサンタの人形があった。
「クリスマスツリーに飾ろうかと思ってたんだけど…色々あって忘れてたんだ。君にあげる」
少女は黙ってそれを受け取る。
「お墓にそれぐらいは飾っても大丈夫だよね」
「…私にもサンタさん来るかしら?」
「来るよ」
手にした人形を見て呟く少女を見据え新八は強い口調で言う。
「君を大切に思っている人が君のサンタだ」
「おぉーい!新八ー!!」
向こうの方から銀時の声が聞こえてきた。
「あ!銀さん!!」
新八は立ち上がり声の主を見る。
「神楽の奴いた?」
「いや、居ませんねぇ……あのですね、銀さん。この子………あれ?」
つい先程まで座っていた少女がいない。
新八は辺りを見回すと困った顔で頭の後ろに手をやる。
「おかしいなぁ…さっきまで女の子が居たんですが…」
「…ほぉ?この寒空の中銀さんが必死こいてガキ探していたのにそちらはイチャついていたのですかコノヤロー」
「い、いや…違いますよ!!」
青筋を立ててはまってくる銀時に新八は両手を上げ首を横に振る。
「万事屋に帰ってっかもしれねぇ。帰るぞ」
「はい」
何だか不思議な子だった。
あの子に幸せが来ると良いな、そう願うと銀時の後を追った。
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