家族

29

その黒い玉にも‘夢幻’と書かれてあった。
神楽がしゃがみ込み石像から出た玉を取り出して比較する。
全く一緒だった。



「フォフォ、お見事じゃった」

弾かれたように声がした方を見ると炎上する車の横に陽紀の父が立っていた。

神楽はムッと口をヘの字に曲げると立ち上がり赤く染まった老人を指差し叫ぶ。

「次はテメェの番アル!その干からびた体をさらにカラッカラにしてやるネ!」
「遠慮しとくよ。儂は忙しいのじゃ。研究所にも鼠が入ったという報告があったしの」

そう言うと沖田を見、ニヤリと笑う。

「面白いデータも取れたし君が潜入してきた事は内緒にしていてあげよう。…これを振り切れたらな」

そういうと通信機らしきものを取り出すと「もういいぞ。捕まえておくれ」とそれに向かって言う。

「一時、警備の者には捕まえるなと言っておいたのじゃ。感謝してほしいのぉ」

フォフォフォと笑うと沖田達に背を向ける。

向こうの方から「いたぞ!!」という声が聞こえてきた。

「好き勝手言いやがってお前等なんてこの神楽様が…ムグ!」
「戦闘種族っつーのは脳まで筋肉になってんのか?!」

沖田が神楽の口を押さえると検問所を抜けた時のように抱え走り出した。








検問所ではしゃがみ込んだ原田の周りを天人達もしゃがみ込み囲んでいた。

「そうそう。この海岸のな…」
「まだやってやがったんかィ」
「え?あ」

原田は走ってきた沖田と神楽を見上げて目を丸くする。何か地に書いていたのか木の枝を持っていた。

「ずらかるぜィ」
「お、おぉ!」

木の枝を放り投げると先に走り去った沖田と神楽を追いかける。

後ろから「待てー!!」と様々な武器を持った十数人の天人達が追いかけてきた。


沖田達は停めていた黒い車に乗り込み発進させる。

「すまんすまん。宝の在処を想像していたらつい少年の心に戻っちまった」
「こっちは老人の心に弄ばれてたっつーのに」
「何だそれ?つかその肩大丈夫か?」

キュルキュルというタイヤの音をさせながら曲がる。
沖田は運転席に捕まりながら後ろを見た。天人達がバイクに乗り追いかけてきている。

「まぁだついて来やがる」
「まかせるネ」

神楽は後部座席の窓を開けると身を乗り出し傘の銃口を走ってくるバイクに向け乱射した。

次々と弾が当たりバイクが転ける。

「ざまぁみやがれアル」

ふぅと銃口に息を吹きかけ後部座席に座り直した。

「それ、弾切れとかねぇの?」
「私の魂が切れる事はないネ」
「意味分かんね」






「振り切ったみてぇだな」

原田がバックミラーで後方を確かめつつ言った。

「あぁー!!疲れたアル!」
「ほんとだねィ」

沖田は溜め息をつき後部座席にもたれ神楽は両手を上に伸ばし背伸びをする。

「結局何か見つける事ができたのか?」
「いや、陽紀はいなかったし…無駄に戦った感じがしまさァ」

そう言うと沖田はジロリと神楽を睨む。

「な、何アルカ。もう一つこれがもらえたネ!」

顔をひきつらせながら黒い玉を取り出し沖田に見せる。

「そんなのもう二度とお目にかかりたくないでさァ」

沖田は目を据わらせつつ窓の外を見た。所々に綺麗なイルミネーションが見える。


そういえば屯所でもやろうって近藤さんと話してたっけなぁ。ツリーすら飾っていない。この事件が終わったらみんなと飾ろう。クリスマスに間に合うかな。



後は…土方からプレゼントを強奪して。

山崎にはケーキと飯作らせて。

鬼嫁まだあったかな。確かめておかなくては。




信号が赤になり車が停まる。


「あ、沖田。その肩今度こそ診てもらえよ。適当にやるからすぐ傷が開い……ん?」


後ろを向き後部座席を見ると沖田の左肩に桃色頭があった。
二人とも静かな寝息を立てて眠っている。



ありゃ、どうりで静かだなぁって思ったら…



時計を見ると9時を回ったところ。

フーと息を吐くとボリボリとハゲ頭を掻き前を向く。




信号が青になった。

チャイナ娘の方は万事屋が心配しているだろうし送ってやらなくてはな。

原田はそう思うと車を万事屋へと走らせた。





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