家族



「今年のクリスマスは一緒に過ごせそうだよ」
「そう、良かった。皐にも言っておくわね」
「あぁ」

ここ数年一緒にいてやれなかったからな。
有名店でクリスマスケーキの予約はした。プレゼントはネックレスが良いかな。あ、そうそう。妻から娘の好みを聞いておかなくては。










「どいてどいて」

黒い服を身にまとった亜麻色頭の男が野次馬をかき分け黄色いテープが張られている所へ行く。

「沖田隊長!お疲れ様です!」
「ほい、ご苦労さん」

手を挙げ部下に挨拶をするとテープを潜り玄関の戸に手を掛けた。


「…!」

中に入った途端に血と排泄物の臭いに思わず顔を歪ませる。
スカーフで鼻と口を押さえ奥へ足を運んだ。

リビングらしき部屋に入ると沖田はさらに顔を歪ませる。
壁には大量の血と臓器が飛び散り床には指、腕、足が無惨に散らばっていた。内臓に入っていた物からは異臭がする。

足の踏み場がない程人間だった物が散らかっている中で黒髪の隊長服を着た男がメモらしきものを見ている。その男は沖田に気づくと「よ」と短く挨拶をした。

「ひでェ」
「多分被害者は3人」
「多分?」
「こんな状態だ。人間一体分を確認するのが難しい」

顔色一つ変えず男は淡々と話す。
確かに頭部一つ落ちていれば良いがそれすら潰されている。

「土方さん、何なんでィ、これ。人間技?」
「俺も聞きたいわ」

そう言い溜め息をついた。
沖田は隣の部屋に目をやる。少しだけ襖が開いていたので中の様子が見えた。この惨劇はリビングだけなのだろうか。隣の部屋は綺麗であった。

「…どこへ行く?」
「隣の部屋。俺、アンタと違ってデリケートなんでさァ」
「さっきもそんな事を言う奴がいた」

まだ土方が煙草を吸っていないだけマシだが、こんな部屋には長く居たくない。
ぶっちゃけ外に出たいぐらいだがもう少し調べたいのでとりあえず隣の部屋に避難する事にした。

襖を開けるとバンダナ頭が目に入る。

「おぅ、沖田。お前も避難か?」
「討ち入りでもあんな事にはならないでさァ」
「山崎なんて入った途端真っ青な顔して外に走っていってたぞ」

そう言うと沖田にアルバムのようなものを投げてきた。
それを受け取り中身を見る。そこには笑顔で映る男と女、そして10才ぐらいの男の子がいた。

「凹助、これは?」
「ここの住人。恐らく被害者だと」

だから土方は多分3人と言ったのか。
ページをめくると学芸会、運動会、旅行…生前は仲が良い家族だったのだろう、写真からでも幸せが感じ取れた…と同時にこの家族の幸せを断ち切った犯人に対して怒りの感情がこみ上げてくる。

「天人かねィ?」
「…滅多な事言うなよ」

静かに問う沖田に顔を歪ませる藤堂。
真選組は幕府直属の特別部隊、もし犯人が天人だとしたら手が出せない。

「人間にはこんな事できねェ」
「野犬かね」
「骨まで砕く事ができる犬たぁ大した獣だ」

藤堂は沖田の言葉にボリボリとバンダナ頭を掻き、何か言い掛けたその時

「オイ、引き上げるぞ」

襖の向こうから土方の声がした。沖田はアルバムを机の上に置き「ま、えいりあんの仕業かもしれねぇし…」と呟き藤堂を見据える。

「余計な模索はしねぇさァ。安心しなせィ」

そう微笑むと襖に手を掛けリビングの方へ入って行った。
藤堂は怪訝な顔をし「はぁ」と溜め息をつくと机の上に置かれたアルバムに目をやる。

「攘夷志士相手の方が楽だな」

と呟くと沖田の後を追った。





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