家族

26





「どうして電話に出なかったのよ!!もしかしたらお母さん助かってたかもしれないのに!!」

「娘さん、落ち着いて下せェ」

独特な喋り方、綺麗な顔立ち、亜麻色の髪の人。同じぐらいの年に見える。
確か「オキタソウゴ」と言ったか。


「必ず犯人見つけやすから」
















「どこをどう見てもヤクザでさァ」
「そう?」

運転席でガハハハと豪快に笑う厳つい顔はサングラスを掛けたハゲ頭。がたいの良い体には隊服ではなく茶色の着物。さらに晒しまで巻いている。

「金髪のねぇちゃんどこに行くんかねぇ」
「原田もアイツを尾行してるのかィ?」
「そうそう」


沖田が万事屋へ行った後、原田、永倉、藤堂、斉藤は捜査を続行していたらしい。…と、言ってもまだ数時間ぐらいしか経っていないのでそんなに進んでいないらしいが、原田達も武田に調査内容を教えてもらい今に至ったみたいだ。

「…俺、てっきり上に従うもんだと」

沖田がボソッとそう呟いた。すると原田は「あー」と声を出しこう言葉を続けた。

「いや、最初はそうしようかと思ったんだぜ?俺と永倉はな。でも凹助が今回の事件は沖田に花をもたせてやりたい、とか言ってなぁー。で、終を巻き込んで続行しようってなったわけ」

その言葉に沖田は目を丸くする。

「終は結構渋ってたぞ。バレた時の代償はでかいからな。俺らみたいに後先考えない単細胞な奴じゃないし」

そこでまた原田は豪快に笑う。

「お前、一年前のあの事件の事引きずってたんだろ。その事に関係ある事件をまた解決できずに終わらすなんて事、沖田はしないだろうから勝手に一人で続けるだろう。だから手伝ってやりたいって凹助が終に頼み込んでさ。あいつはお前の兄ちゃんかよ」

そこで一呼吸し原田は言葉を続ける。

「そんなとこだ、沖田。万事屋も良いが、身近なとこにも頼ってくれよ。ちゃんと見てっから」
「…サド…顔が赤…痛っ!!」

神楽が言い終わる前に沖田は桃色の頭を思い切り叩く。

「何するアルカ!!」
「…どいつもこいつも子供扱いしやがって」

沖田は掴みかかってくる神楽を防ぎながら聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で呟いた。

「あぁ…そうだ。後お前のとこの隊員、さすがに隊長がいつも単独行動ばっかするから自分達である程度考えて行動できるようだけど…指示ぐらい出してやれよー。そんな扱いにも関わらず隊長の事心配してたけどな。特に神山」

あ、そういえばここんとこ放置だったような…

結局何だかんだ言って自分の事ばかりで周りの事見てなかったな、そういう所がまだ子供だというのか。

沖田は自嘲するような薄笑いを浮かべる。

「あ、次は独りで笑ったネ。気味悪…っと!!」

神楽はまた頭を叩こうとする沖田の手をガードし「フフーン!もう同じ手は食わないアル!」と得意げに言う。
そんな神楽を無視し窓の外を見た。もうすっかり日が落ちて暗くなっている。


「あ、ヤベ」

突如原田がそう言い車を止める。

「何でィ」
「検問。さすがにこれを突破できる自信はねぇ」

サングラスをはずし原田が指を差す。その方を見ると赤いランプが3、4本見えた。陽紀達が乗った車はそこまで行くと一度止まりすぐ発車する。

「当然アイツ等は行けるわな」
「あそこから幕府の敷地ってわけかィ。さて、どうするかね」

沖田は溜め息をつき検問を見据える。

「強行突破アル!銀ちゃんならそうやるネ!」

拳を振り上げ声を上げる神楽に沖田はポンと手の平を打つ。

「それ良い案じゃねーか。おめぇが行って混乱させている透きに俺等が入りまさァ」
「幼気な少女を囮に出す気アルカ」
「警戒させたまま入るのもなぁ」

原田はうーん、と顎に手を当て考える。

「とりあえず車から出やしょうや。検問の様子見てから考えようぜィ」

沖田はそう言うと車から出る。続いて原田と神楽が出た。



「あーあ」

検問の近くまで行くと神楽が頬を膨らまして目を座らす。

「すーっかり見失ったアル。召喚士になるクリスタルはここにあるのか?」
「召喚士?クリスタル?」
「コイツは夢見てるんでィ。気にすんな」


高い塀が敷地を囲むように建っている。ちょうど車二台通れるぐらいの幅が空いており、そこで検問をしていた。


「6人か。結構居やがる」

あの塀を飛び越えるのも無理だろう、飛び越えたとしても赤外線が張ってあるだろうし、やはり検問を突破するしかない。

原田はしばらく考えた後沖田を見る。


「沖田、俺が行ってアイツ等引きつけておくからお前等行ってこい」
「え、大丈夫か?」
「おぉ」

沖田の言葉に原田は返事をするとサングラスを掛ける。

「危なくなったら絶対無理をせずここまで逃げてこいよ」
「あいよ」
「コイツ見捨ててでも逃げ帰ってくるネ」
「コイツを盾にするぜィ」
「敵にぶつけてやるネ」
「売り飛ばしてくれまさァ」


――…大丈夫だろうか?


早速仲間割れをする子供達に不安を覚えつつ立ち上がる。


「俺がサングラスを取ったらゴーサインだ。気を付けてな」
「そっちこそ」

二人はお互いを見てニヤリと笑うと原田は検問所へ行った。





「はいはーい。ストップ。ここからは幕府が管理する敷地だよ。どちらさん?」

検問所にいた天人の一人が近づいてきた原田に対して赤いランプの棒を振る

「あぁ?!貴様等ワテを知らんのかぁ?!」
「いや、知らんから聞いてるの。誰?」
「ワテはいずれヤクザ王になる男やで?!」
「お、王?!」

他の天人も何だ何だと原田に近づいてきた。

「はぁ?ヤクザ王って知らんのか?ヤクザ王っつーのはな、江戸のどこかに隠されてあるひとつなぎの大秘宝、ワンピースを見つけ」
「あれ?それ、何かどこかで聞いた事あるんだけど?」
「ワ、ワンピース…?洋服か?」
「秘宝だって」

そこで原田はサングラスを取り「え?マジで知らないの?おたく等」と言う。



「チャイナ」

行くぞ、と言いかけた沖田だったが神楽の目がキラキラしている事に顔が歪む。



――嫌な予感。



「私もヤクザお…ムグッ」

沖田は咄嗟に神楽の口を押さえるとそのまま抱えるようにして原田の周りに群がる天人達の目を盗み検問所を走り抜けた。





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