家族

24

こんなに暴れて誰かが通報しない筈はない。
石像が消えた後パトカーのサイレンが聞こえ真選組がやってきた。

「だーかーらー多串君、俺は通りがかっただけだって」
「ほぉ?銀髪の人が暴れているという通報だったが?」
「世の中には自分に似た人が三人いるって言うぜ。その一人じゃね?」

鼻をほじりながら淡々と喋る銀時に土方は青すじを立てる。

「こんな鬱陶しい面が後二人もいるっつーのか?」
「それそのままそっくりお返しします」

二人の間で火花が飛び散る。




その様子を沖田と神楽と新八は物陰に隠れて見ていた。

「神楽ちゃん、僕達まで隠れなくても良かったんじゃない?」
「さっきのゴーレムからこんなの見つけたアル。多串君に見つかったら取られるネ」

そう言う神楽の手には黒いガラス玉のようなものが光っていた。

「チャイナ。ウチの地味な奴はそんな風に正体不明の物を迂闊に触った事で一時狂ったんだぜィ。これ以上事をややこしくするな」

沖田は神楽の手の中にある物を取り上げた。神楽は「あー!!」と声を上げると「返すアル!!」と叫び取り返そうと暴れる。

「ねぇ、隠れている意味なくなるよ?」

新八が取っ組み合いになっている二人を見て溜め息を吐く。

「…お?何か書いてある…えーと」

沖田は片手で神楽の顔を押さえつつ玉に書かれてある字を読む。

「…む…げん…夢幻?」
「何ですか?それ」

新八も沖田の手元を覗き込む。

やっぱりあの研究所産だったのか、と思った所で手元から神楽に玉を取られた。

「ゴーレム討伐の記念品アル」
「まだまだこれからお見えになるかもしれませんぜィ」

考えたくはないが、もしかしたら大量生産されているかもしれない。石が作られたかもしれない研究所へ行く必要があるな、と沖田は考えたがある重要な事を思い出す。


…場所知らない。



こういう時に山崎や終が頼りになるのだが…。

沖田は溜め息をつきふと前を見るとまだ土方と銀時が言い争っていた。



「しつけぇなぁ。えいりあんが勝手に暴れたんだろ?俺関係ねぇし」
「あぁ?!拷問にかけたろかコラ」

すでに意地の張り合いになっていた。その傍で「あのぉ」と遠慮がちに話しかけてくる山崎を土方はギロリと睨む。

「なんだ?」
「あ、はい!…いや、その、五十嵐さんの奥様が…」


――え?


山崎の言葉に沖田は目を丸くし銀時も弾かれたように女性を見た。


山崎の後ろには金髪のストレートで長い髪、スタイルの良い女性がいる。

その女性は紛れもなく沖田が一年前追っていた天人だった。



「あらぁ…我が家がこんな事に…」
「えいりあんが暴れたようです。どこかへ消えてしまったらしいですが」
「まぁ…」

瓦礫の山を見ていた女性は土方の言葉に口に手を当て驚く。

「あの…娘がいたと思うのですが…」
「…家の中に居たのでしょうか。今早急に瓦礫を片付けていますので」
「心配ですわ」

再び瓦礫を見上げる女性の肩を銀時はポンと叩く。

「奥様、娘さんが心配ですよね。私達真選組が全力を持ってお探ししますからご安心下さい」
「オイ、コラ」

顔をひきつらせ土方が鯉口を切る。そんな土方にはお構いなしに銀時は言葉を続けた。

「旦那様はどうしたんです?」

その言葉に土方の動きが止まり目を見開く。

「夫は今出張中でして…明後日には返ってくる予定なのですが」
「そうですか。クリスマス前に災難でしたね…確か去年も」
「…あの、私気分が悪くなってきましたのでこれで失礼します」

女性は一礼すると足早に去って行ってしまった。

「……なぁ、万事屋」
「あぁ!!クリスマス限定のマヨネーズサンタが空を飛んでいる!!」
「何?!」

もちろん銀時が指差す方には何もなく、振り返った時にはもう姿はなかった。


「…あんのやろ…」
「副長、引っかかり方がお約束すぎます」
「…何だ?山崎」
「え?いや、あの…」




「あれは何か知っていますね」

余計な突っ込みをしたせいか土方にボコられた山崎が銀時が去った後を見て言った。

「そうだろうな」

溜め息まじりの紫煙を吐き土方は答える。

大体、本当の通報内容は「えいりあんが暴れている」だ。えいりあんを銀髪の人に変えたというのに驚きもせずくだらない言い訳しやがって。

「総悟は?」
「昼過ぎから見てません。確か非番ですよね?」

あいつだな、どうしていつも万事屋に行くのか、土方はそう思うと自然に溜め息が出る。



「…良いんですか?」



山崎が土方をジッと見る。



「…」



どういう意味の‘良いんですか?’だ。



土方は何も答えず瓦礫の山を見据えた。





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