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あのオカマ、中々やるじゃねーか。
武田から渡された封筒の中身を見ながら沖田は思う。
一年前の事件の時、母親の知人には犯人らしい人物はいなかった。それで沖田は幕府の官僚である父親の近辺を洗い流していた。
それがまた難しい。ずっと本庁に単身赴任している男の近辺といったらほとんど幕府の人間。頼みの綱である山崎は出張中。誰だよ、あいつ出張に行かせた奴は、と一番最初に推薦したのは自分だという事を忘れて沖田はそう思った。
自分なりに尾行やら調査やらしている際、ある女天人の存在に引っかかる。
スーパーモデルのような体型の女天人は単身赴任中の男の浮気相手だった。尾行中ちょうど二人がラブホテルに入って行くところを目撃する。
妻が殺されたっつー時に…単身赴任なんぞさせるもんじゃないねィ。
なんて思いながら現場を後にし、女天人の詳細を探ろうと幕府に友人が多い武田に聞き調査をお願いした数日後に捜査中止命令がきた。
でもまぁ、前向きに考えりゃあそんな命令がきたっつー事はかなりの確率でその女天人が黒じゃねーか。
あ、あった。こいつだ。紙を見ていた沖田はある女の名前に目が止まる。官僚の娘らしいその名前の横に御丁重にも「←浮気相手なんじゃないのかしら」と書いていた。
他に何かあるかな、と目を通していると「夢幻」という研究所の名前があった。どうやら武器などを作り研究している施設らしい。そんな事まで分かったのかと武田に驚愕する。さすがに詳細まで書いてはなかったが、ただのオカマではなかったんだな、と感心した。
さて、一年前の犯人を今更分かっても捕まえられない。もう捜査中止とされ調べる事を禁止されている。もし捜査続行している事が上にバレたら真選組トップの近藤の首が危ない。
もちろん今回の事だってそうだ。そもそも一年前、自分が捜査をもたついていた事で犯人逮捕に間に合わなかった。その事で娘が犯行に及んでいるかもしれない。そんな事を思うといてもたってもいられない。
そこで沖田はふと思う。
なぜ家族を襲ったのか。一件目、二件目、三件目、幸せそうな家庭だった。山崎が始めに襲った母子も永倉が言うにはクリスマスを楽しもうとする仲の良い親子だったらしい。志村家は分からないが。
幸せな家庭を恨んだ無差別な犯行か。
つかあの石何?
「あー!もう!!」
バタンと仰向けに倒れ天井を見る。
頭使うより刀振る方が断然良い。
捜査中止じゃなければ山崎使うのに。
終にも助言してもらって…
どうせみんな上の命令に従うのだろう。
「…死ね土方」
殴られた左頬を触る。
カッとなっていたので考えられなかったが…あの時松平を殴っていたら取り返しのつかない事になっていたかもしれない。
何も言わずどっか行っちまいやがって…あぁ、気に食わない。
ボーッと天井を見る。
団子食いたい…
あの時二口ぐらいしか食べられなかったし。気分転換に食べに行こうか…
「あ!」
何か思いついたように目を大きく開けてガバッと起きあがる。
いたじゃねーか。
何もとらわれず金さえ払えば何でもしてくれる便利屋。
自然と笑みがこぼれる。
私服に着替え襖を開けた。
さて、甘味処で手土産でもたんまり買って行くか。
ついでに無駄に酸っぱいだけの菓子も買って。
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