19
病院で入院している近藤に土方が捜査中止になった事を伝えると短く「そうか」と返事をした。
「総悟怒ってただろ?」
「それはもうご立腹だ」
近藤はハハハと苦笑する。
「もしまた事件が起こる事があったら次からあちらが対応するらしい」
「とっつぁんが来た時には五十嵐さんはその時いたのか?」
「いや…見なかったな。車の中にいたのかもしれんが」
土方は煙草に火を付けようとすると「トシ、病院は禁煙だから」と止められる。
「…総悟の気持ちも分かるがな。所詮俺らは拾われ者なんだよ。ここで問題を起こせば近藤さんの今までの苦労が無になる。刀を持つには…真選組が存続するには従うしかねぇ」
そう言い黒髪をボリボリと掻きながらマヨ型ライターを渋々と懐に入れる土方。
「俺は総悟が羨ましいよ。自分に真っ直ぐで。迷いがない。立派な侍魂だ」
「…ガキなんだよ。あいつは」
ハァと溜め息をつく土方はふと窓際の大量のバナナに気が付いた。
「あ、あぁ。お妙さんが見舞いにきてくれてな。持ってきてくれたんだ」
あぁ、だから頬にガーゼが増えたのか、とは口には出さないでおこう。
「あんな事があったから塞ぎこんでいるのかと思ってたんだが元気そうだった。良かったよ。もう来ませんよ、とか言ってたけどお妙さんツンデレだからなぁ…」
満面の笑みで話す近藤。
ツンの割合が多いな、とも思ったがやっぱり口には出さないでおこう。
ふと近藤は真面目な顔に戻ると土方を見据えた。
「…やっぱり中止か?」
「あぁ…そうだな」
自部屋で胡座を掻いて不機嫌極まりない沖田を襖の影から見ていた永倉と原田はハァと溜め息を吐く。
「…どうするよ」
「…って言ったってねぇ…」
原田の耳打ちに永倉は首を横に振る。
「あら?何してるの?」
「あ、オカマ」
武田が茶封筒を口元で隠しながら二人に話しかけてきた。
「今沖田に近づかない方がいいぜ。不機嫌絶頂」
「ま!その沖田に用があるんだけど」
「え」と二人は目を丸くして武田を見る。
「一年越しのラ、ブ、レ、タ、ァ」
「はぁ?」
怪訝な顔をする二人にパチリとウィンクをすると武田は何の躊躇もなく沖田の部屋の襖を開けた。
「失礼するわよー」
沖田は無言で前を見ている。それに構わず傍によるとそっと屈んで「ハイ」と持っていた茶封筒を渡した。
沖田はそれを横目でちらりと見て受け取り、中身を確認した途端目を丸くして武田を見る。
「頑張ってね」
…と亜麻色頭に手を置くと立ち上がり「バァーイ」と言って部屋を出て行った。
「え?何?!何渡した?」
「何だよあれ?」
後ろ手で襖を閉める武田に永倉と原田が詰め寄る。
「一年前の事件の時、あのお父さんの周りにいる人達の事を教えてくれって言われてたのよねー。ほら、私幕府に友人多いじゃない?だからその友人の一人にちょーっとお酒の力を借りて聞き出したの。それをまとめたやつがあれ。せっかく聞き出したのに中止だって言うんだもん。くやしいからずっと取っておいたの」
永倉と原田は口が開いたまま目を丸くしてその話を聞いていた。
「お前、オカマ…じゃない、頭だけじゃないんだな」
「友達は多い方が良いわよー」
ハゲ頭を撫でる武田に「触るなよ」とその手を退ける原田。
「あれを見て沖田がどうでるかは知らないけどね」
「んー…ん?」
永倉が顎に手をやり考えていると向こうの方で手招きしている藤堂に気付く。
「?」
永倉と原田は目を合わせると藤堂の元へと行った。
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