18
今の時刻は9時。
少しだけ遅くなった。
あぁ、また口うるさく言われる。玄関開けたら自分の部屋へ直行。
そう心に決め玄関を開ける。
いつもと違う雰囲気に足が止まる。
何でこんな所でお母さん寝ているの?
この鉄の臭いは何?
この赤い液体は…
足震える。
鞄が落ちる。
手を伸ばす。
「お…かあ……さん?」
すぐ近くに開いたままの携帯電話があった。
見ない。見れない。見たくない。
そんな私の思いに反して勝手に手は携帯電話の方へ行く。
発信履歴には19:50に私。
20:10
20:12
20:13
20:16
20:25
全て、父だった。
「ふざけんじゃねぇ!!!!!」
屯所敷地内に怒鳴り声が響きわたった。
「総悟よぉ、おめぇもうちょっと利口になれよ。いつまで甘ったれたお坊ちゃんでいるんだ?えぇ?!」
松平が葉巻を加えサングラスから見下ろすように沖田を見ている。青ざめた顔の山崎が今にも殴りかかりそうな勢いでいる沖田を二人の間に入り押さえていた。
傍にいる藤堂も腰に手を当て複雑な表情だ。
「お、沖田さん!落ち着いて!」
「…何が中止だ。人が何人も死んでるんだぜィ?またてめぇらの一言で止めてたまるか!!」
「よく言うねぇ。人殺し集団の斬り込み隊長が」
近藤が負傷した三日後、とうとう恐れていた事がくる。松平が猟奇事件の捜査中止を命じてきたのだ。
「せめて理由をお聞かせくれませんか?」
「あぁ?上からだ。理由なんて聞いちゃいねぇし聞くつもりもねぇ。俺らはただ言われた事を伝えるまでよ」
静かに問う斉藤に松平は面倒くさそうに耳をほじりながら答える。
「まぁ、一向に解決しねぇてめぇ等に見切りつけたんじゃねぇの?」
さすがにこの言葉にはピクリと反応する斉藤と藤堂。
「舐めんじゃねーよ…。どいつもこいつも上が上がって言いやがって。俺らの大将がやられたんでィ!!黙ってられるかァ!!!!」
「沖田さん!!」
間にいる山崎はもうすでに半泣き状態。
松平はそんな沖田に盛大な溜め息を吐いた。
「お坊ちゃん。剣の腕を鍛えるのもいいが、ここももうちょっと鍛えた方が良いんじゃね?」
トントンと自分の頭を叩く松平。
「あぁ??!!」
「沖田さん!!ほんっともう!!お願いしますって!!」
「近藤がやられたぁ?!頭だけじゃなくてめぇ自身も弱ぇからそうなったんじゃねぇのか?コラ」
プツン――
沖田の瞳孔が開き前にいる山崎を跳ね退け松平に殴りかかる。
…が、今まで黙っていた土方が松平に届く前に拳を受けると同時に沖田を殴った。
沖田の体は後ろへ飛び柱に激突する。その傍で隠れて様子を見ていた永倉と原田が「わぁ!」と声を上げた。
「帰る。まぁそういう事だ」
松平は背を向け黒い車の方へ去って行った。
柱にもたれ掛かる沖田は口元を袖で拭うとチッと舌打ちをし俯く。
土方はその姿を無言で見据えていた。
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