17
「分かってるって!昨日言ったじゃん!……分かった分かったはいはい。切るよ!」
「どーしたの?」
「お、か、あ、さ、ん。ちゃんと昨日8時に帰るって言ったのにさ!晩飯いるのー?とか早く帰って来なさーいとか…」
「分かる分かる!一々うっせぇんだよババァ!って感じよねー!」
友達といる時は母からの着信拒否ってやろうか。いくら楽しくても液晶画面に「母親」という文字を見るだけで不愉快な気分になる。
「次どこ行く?」
「カラオケ行こ!」
「おっけー!」
久しぶりのカラオケ。暇してた友達も呼んで良い感じに盛り上がった。
「ん?」
ポケットの中で携帯電話のバイブ音がなる。開いて見るなり溜め息が自然にでた。
――また「母親」か。
時計を見ると7時50分。まだ時間でもないのに掛けてくる必要性を是非問いただしたい。
「うざ…」
そのまま電話には出ず電源をオフにした。
「恐らくこういう事だろう。一年前、母親を殺害した犯人を捕まえない俺らを恨んだ犯行。石の入手経路が不明だが」
土方が紙を見ながら話す。そして溜め息を吐くと紙を置いた。
「一番の問題がその娘、五十嵐皐が松平のとっつぁんの付き添い人の娘…つまり幕府の上層部の関係者。曖昧な時に知られれば権力で捜査が断たれる可能性大」
「完璧に尻尾を掴めばいくら上でも逮捕するな、とは言えないって事だろ?」
「つったってあの石がなぁ…」とぼやきながらバンダナ頭を掻く藤堂。
「土方さん、何でとっつぁんの付き添い人が五十嵐だって分かるんでィ?」
「この前とっつぁんがここに来た時に付き添いで来た」
「大体この事件は一人二人の犠牲者じゃないんですぜィ?いくら娘がしたかもしれねぇからって止めさすかねィ」
「あくまで可能性だ。親父の道徳心に賭けるしかねぇな」
腕を組み不機嫌そうに話す沖田に土方は言う。
「一件目から三件目の被害者は飼い犬がその石に乗っ取られ殺された、で良いんですね?」
「あぁ」
「あんな石どこで手に入れるんだ。どう考えてもこの世のもんとは思えねぇ」
山崎がメモを取っている横で胡座を掻き肘をついて顔をしかめている藤堂が言う。
「…天人が作った物だろうね。そうとしか」
「あんなの大量に作られたら江戸が終わる。江戸どころか世界が終わる」
斉藤の言葉を聞いて藤堂は昨日の事を思い出したか手の平に額を乗せて顔を横に振る。
「天人……一年前は親父の周りで天人の臭いがしてたんですけどねィ」
「…あの周りにはごまんといるだろうな。あぁ…石は親父からっつー事もあるか」
「単身赴任の男って女にモテますかねィ」
「それはその男にもよるだろ……………たまにお前と話していると話噛み合わなくなるよな」
土方は胡座を掻きゆらゆらと体を左右に揺らす沖田を見て溜め息をつく。
「ただいま帰りましたー」
「オッス」
襖が開いた先に青年とハゲ頭が姿を現す。
「あぁ、近藤さんどうだった?」
「いやぁー元気元気。昨日死にかけた人とは思いませんぜ」
土方の問いに答えた原田の隣でうんうんと頷く二木。夜勤帰りに近藤のいる病院に寄ったようだ。
「そうか。ご苦労だったな」
土方の隣にいる沖田も自然と安堵の表情になる。
「そういえば石はあの子の所に戻ったんかね?他の誰かの手に渡ったとか」
「山崎が持っていた時にお前は誰だって聞いていたから戻ったんじゃないかな」
藤堂の問いに斉藤が答える。
「兎に角、早急に石の詳細と入手方法を調べる必要があるな」
「土方さん」
ふと沖田が強い口調で土方を呼んだ。
「何だ?」
「もし上から捜査中止の命令がきたらどうすんでィ」
沖田は土方を見据える。山崎達も弾かれたように二人を見た。
「…決まってんだろ。従うだけだ」
戻る