家族

16

近藤を乗せた救急車がサイレンを鳴らし去っていく光景を沖田と土方は眺めていた。

「お前、それ診てもらわなくてもいいのか?」
「いい」
「診てもらえよ」
「いいって」
「…なら止血ぐらいしとけ」

土方はハァと溜め息を吐き自分のスカーフ外して渡す。沖田はそれをちらりと横目で見ると無言で受け取る。

「もう片方は自分の使えよ」
「分かってる」

淡々と答える沖田を見て再び溜め息を吐いた。

土方が来たのは救急車が着いた時と同時だった。近藤の負傷はもちろんの事、この惨憺なる光景にも驚いた。藤堂から粗方聞いたが、体の一部が別れて襲ってくるなんぞどこのSF映画だ。

「沖田さん」

眼鏡の少年が駆け寄ってきた。

「助けて下さりありがとうございました」
「あぁ」

沖田は礼をする新八の方を見向きもせず返事をする。土方はそんな沖田を横目で見ると髪をボリボリと掻き新八の方を見た。

「…姉ちゃんは?」
「姉上なら家の中で寝ています」
「そうか。…頭くるくるパーは?」
「……えーと」
「万事屋のあいつだ」

眉間に皺を寄せながら言う土方に「あー」と新八が納得をする。

「さぁ…僕は午前中クリスマスツリーの飾り付けをして、午後からあちらへ行く予定にしてたんですよ」
「そうか。そりゃ災難だったな」

「そうですね…」と顔を曇らせる新八を見、土方は煙草に火を付ける。

「ここらの修繕は真選組が費用だすから気にすんな」
「あ、ありがとうございます」

どうせ言わなくとも近藤さんが出すっていうだろ、と紫煙を吐きつつ土方は思う。
新八は土方に礼を言うと「姉上のところに行ってきます」と言って家の中に入っていった。


「副長、大方終わりましたよ」

入れ替わるようにしてメモを持った山崎が土方に近付いてきた。

「あぁ」
「局長…大丈夫ですか……ね…………」

山崎が一瞬野次馬の方に向かって目を見開くがすぐメモに目をやりそのまま小さな声で呟く。

「例の…女子高生が…」
「何?!」
「…!!」
「か、顔向けちゃあだめですよ…!逃げちゃうかも…」

山崎は自分の言葉に反応し野次馬の方を見ようとする土方と沖田を慌てて止める。
「あ、あぁ」と視線を元に戻すと二人は目の端で確認する。山崎も目線を下にして話しだした。

「三本の木ありますよね?その向かって一番左の…制服を着た…」
「え」

山崎と土方がすぐ反応した沖田を見る。



あれは――



「五十嵐皐…でさァ」
「え?あの子が?」

目を丸くする山崎。一方の土方は顔をしかめている。

「あぁ、そうだ。間違いない……マズいな」
「え?確か殺人事件の被害者の子ですよね?」

山崎は不思議そうに苦々しい顔の土方を見た。


「話は屯所に帰った後だ」
「あの子どうします?」
「今は放っておけ」


土方は野次馬に背を向け去って行った。
その後ろ姿を怪訝な顔で見る山崎だったがふと沖田の方を見る。

「あ、沖田さん。その怪我ちゃんと診てもらって下さいよ。膿んだらどうするんですか。敗血症にでもなったら大変ですよ。全くいつもいつも適当に」
「お前は俺の母ちゃんか」

片方の耳を塞ぎ顔をしかめ山崎を見る。

「土方さんに感謝しなせィ。お前もあぁなってたかもしれねぇぜィ」

沖田が指を差す方向では例の化け猫の体が三つに分かれた状態で隊士達に運ばれていた。それを見た山崎の顔が見る見る青ざめていく。

「ア…アハ…アハハハハ…」

忘れていた筋肉痛が蘇ってきた。





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