家族

15

『志村家辺りで化け物のような声がするという通報があった。例のヤツかもしれねぇ』

…と、土方から沖田の携帯電話に連絡があったのは数分前。茶屋で団子を食べている時だった。

『朝から近藤さんを見かけない。…嫌な予感がする。すぐ行っ』

続けてそんな事を言うものだから沖田は最後まで聞かず携帯電話を放り投げパトカーに直行した。後ろから「えぇ?!」と藤堂と山崎が声を上げる。




真選組一運転の荒い一番隊隊長がパトカーを飛ばした先で見たものは、沖田と長い付き合いのある大好きな近藤が血まみれで化け猫と対峙しているところだった。



プツン――



何かが切れる音がしたと同時にもう抜刀して宙に飛んでいた。





「きょ、局長??!!」

山崎が近藤を見るなり驚愕し叫ぶ。
近藤の後ろでは青ざめた顔の志村家の姉弟が目に入った。

「や、山崎さん…近藤さんが…」

駆け寄ってきた山崎に新八が声を震わしながら言う。後方では藤堂が電話をしている。救急車を呼んでいるのだろう。

「総…悟…」

…と、近藤は呟くと気を失う。山崎は近藤の肩を抱き「局長!局長!!」と、半泣きになりながら叫んでいた。



その刹那、首だけになった化け猫の目が赤く光った。口を開け首だけの状態で沖田を襲う。

「ヒギイィィィ!!!!」

耳をつんざくような声と共に噛みついてくる化け猫の首を沖田は避ける事もなく体を斜めにし両手で柄を持ち峰を下にして刀を顔の横に構える。
目前まで涎をまき散らしながら来た口の中に目掛けて突きを食らわした。柄の部分まで口の中に入れるとそのまま剣尖で弧を描くように上へ斬り上げる。

首は顎の部分を残して真っ二つに分かれた。血と頭の中に入っていたものが溢れ出てくる。

「沖田!」

藤堂が叫んだ。体だけとなった化け猫が次はこちらだと言わんばかりに地を蹴って襲ってくる。
沖田はそれを振り向き様に一刀すると体は血飛沫と一緒に首のない上半身と下半身が二つに分かれ落ちる―――筈だったが、地には落ちず上半身はそのまま両手を広げ沖田の両肩に爪を突き刺した。

「っ!!」
「沖田さん!」

沖田の目が見開き山崎が叫ぶ。さすがの沖田もこんな非現実的な事は予測できない。刺されたまま塀に体をぶつけられ顔が痛みで歪む。塀には血が飛び散りパラパラとコンクリートの欠片が落ちていった。化け猫の内臓がボタボタと上半身からこぼれ落ちる。
両肩を壁に固定されるように爪が食い込んでいるので動きが取れない沖田を残った下半身の両足が襲いかかるが咄嗟に藤堂が間に入った。


ギィィィン!!

辺りに金属音が響きわたり刃こぼれの青い光が散る。額の前で刀を横にし爪を受け止めた藤堂は歯を食いしばり押し返そうと両手に力を込めた。

「こんっの…化けもんがァァァ!!!!」

雄叫びを上げやっとの思いで押し返し刀を縦にして下半身を突きそのまま地面に刺す。刺されても尚暴れる足を踏みつけた。

顎から汗が流れ落ちる。荒い息をしながら横目で沖田の方を見、化け猫の上半身を掴み引き抜いた。

「近藤さん!!」

沖田は弾かれたように近藤の元に駆け寄る。



ピーポーピーポー



遠くの方から藤堂が呼んだであろう救急車のサイレンの音がした。



藤堂の足元にある化け猫の下半身と手に持っている上半身から黒い煙が出る。少し離れた所にある首からも出ると上で一つになり石となるとどこかへ飛んでいった。



山崎の時と同じように。





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