家族

14

「ここここここ近藤さん!ななな何ですかぁ??!!あれはぁぁ!!!!」

若干裏声気味で叫ぶ眼鏡の少年の方を振り向き近藤は二カッと笑う。

「大丈夫だ!新八君!!お義兄さんにまかせなさい!!」
「いや、お義兄さんじゃないけどね??!!断じて違うけどね??!!……て……あれ?何かあの猫でかくなってません?段々大きくなってきてません?!」

新八が震えながら指を差している。その先にいる猫が黒い煙をだし毛を逆立てながら巨大化してきたのだ。定春ぐらいの大きさだが、あんなに可愛らしくはなく白い毛は逆立ち赤い目で口からは涎を垂らしている。どこからどうみても化け猫だ。

しかし近藤は臆することなく前を見据える。後ろにいる妙はガタガタと震えていた。数分前までは可愛い猫だったのだ。無理はない。

「シャアアァァ!!!!」

化け猫は地を蹴り涎をまき散らし近藤に向かって鋭い爪を振り下ろす。それを刀で受け止め「うぉりゃあぁ!!!」と弾き流すと化け物に向かって左から右へ一刀するが化け物は上へ飛んだ為空を斬る。
間を空けず宙返りをし体制を整えると宙を走るように近藤を目指して頭を噛み砕こうと大口を空ける。
瞬時に刀を持っていない手で脇差を取ると縦方向にその口の中へ突っ込んだ。

「ギシャアァァ!!!!」

脇差の剣尖が化け物の顎を突き通り血が噴き出した。

「うおぉぉぉ!!!!!」

怯んだところを刀で頭を叩き割る。骨が割れる音と何かが潰れる音がし血と脳漿が飛び出した。

勝負あったか、化け物はベタッと地面についた。化け物を見据え返り血で真っ赤に染まった近藤は刀を出したまま肩で息をする。


「す、凄いじゃないですか!!近藤さん!!」

呆然とその戦いを見ていた新八だが、化け物が動かなくなったのを見ると賞賛の声を上げて近寄ってきた。近藤は振り向き微笑み返す。

「いやぁー、ただのゴリラじゃなかったんですね!ストーカーでもなかったのですね!ちゃんと刀持って戦えたんですね!」
「何かさりげにひどい事言ってるよね?」

刀を服の裾でひと拭きし鞘に納める。

「す、すみません…姉上!凄かったですね!」

未だ呆然としている妙の肩を叩き話しかける。

「え、えぇ…まぁ…」
「ハハハ…びっくりしましたよね」

新八を見上げる妙の言葉がまだ震えているのを聞き近藤は苦笑する。





ガコ…グチャ…





後方で何かが合わさる嫌な音がした。





まさか、とは思った。





そのまさかだった――






「新八君!!伏せろ!!!」
「え…わぁ!!」

近藤が咄嗟に新八の頭を押さえ二人を庇うように覆い被さる。


「ぐあぁぁ!!!」
「近藤さん!!!!」
「きゃあぁぁ!!!」


近藤の血が飛び散る。新八の目が見開き、妙が頭を抱え目を瞑る。


「まさか…そんな…!!」

新八の目に映ったのは近藤にやられる前の姿をした化け猫だった。



近藤は荒い息をしながら立ち上がり前を向いて再び抜刀する。


油断をしていた。トシの報告によるとザキが戻る前、黒い煙がでて一つになり石になった、と言っていたではないか。まだ終わってなんかいない。

「チッ!」

舌打ちをし歯を食いしばって己を恥じる。

「近藤さん!!」

妙の肩を抱いている新八は悲鳴に似た声を上げる。目の前の男の背中はザックリと獣の爪に裂かれ血に染まっている。

銀さんは…と、思うがそんなスーパーマンのように都合良く来る筈はない。

「新八君、お妙さんを連れて逃げてくれ」

近藤が振り向かずに言う。その言葉に頷き妙の肩を揺する。

「姉上!逃げましょう!!」
「で、でも…」
「邪魔になるだけですよ!!」

妙の腕を掴み一緒に逃げようとする。それを見た化け猫が四本の爪を伸ばし針のようにして二人に襲いかかる。
咄嗟に近藤が刀を爪の下から思い切り振り上げ上へ弾く。しかし、がら空きになった腹をもう片方の爪が食い込んだ。


「ぐぅ…ぷっ」

近藤の口から血が噴き出す。

新八の目がこれ以上ないと言うぐらい見開いた。「いやぁ!!」と妙は口を押さえ叫ぶ。




「逃げ…て…ください」

尚、二人を逃がそうとする近藤に化け物は噛み殺そうと口を開けた。






その刹那――





「うるああぁぁぁぁ!!!!!!!」





ゴトッ――






化け猫の首がゴロリと地面に転がる。


「…?」



近藤の掠れゆく視界に映ったのは亜麻色の子供だった。





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