家族

13

ここ最近の江戸は物騒だ。だからこそ人は愛する者の傍を離れずに護ろうとする。クリスマスツリーを弟と一緒に楽しそうに飾る彼女。その笑顔、この愛の戦士が必ずや護ってみせます。


「新ちゃん、今年のクリスマスは卵焼きが良いかしら?それとも焼いた卵が良いかしら…。」
「どちらも同じ物です、姉上」

笑顔で話す女性に少年はツリーの飾りを付けながら眼鏡を光らせ突っ込む。

「ケーキは銀さんが作ってくれるらしいですよ」
「まぁ!嬉しいわぁ。それなら尚更卵焼きがいるわね」
「何で?」


あぁ…今日も美しいです。お妙さん。どんな素晴らしいクリスマスイルミネーションも貴女の輝きには全く叶わないでしょう。


「あら、こんな星の飾りあったかしら?」
「あぁ、昨日買ったんですよ。少なかったので」
「そう。中々刺しがいがありそうだ…わ!!」
「ぐはぁぁ!!!」

突如手に取った星を上に投げつける。血飛沫と共に落ちてきたのは真選組局長近藤勲だった。

「…アンタ、今江戸の町は大変だっていうのに何やってるんですか?」
「新八君、愛の戦士というものはどんな時でも愛する者を忘れてはいけない」
「真選組局長という身分忘れてはいませんか?」

血を噴きだしながら淡々と喋る近藤を見下ろす新八。横にいた妙は笑顔で近藤の胸ぐらを掴んで体を上へと持ち上げる。

「ゴリラ星のクリスマスはいつかしら?帰らなくても良いの?」
「い、いや、別に帰らなくても…というか、あるかどうかも知らないし、その前にゴリラ星とは何も関係が…」
「私が送ってあげましょう」

笑顔を絶やさず薙刀を取り出す。新八は近藤と妙のやりとりを顔を歪め苦笑しながら眺めていた。

こんな人が局長なんて…真選組も大変だな、と思うが他の人も大概なのでどうでも良いかな。


「にゃあー」


ふと猫の鳴き声が聞こえた。汗と血まみれの顔で両手を上げ慌てる近藤の下を猫が通る。

「あれ?」
「あら!可愛い!」

近藤を放り投げ妙は白の体に黒の模様が入った茶色い目の猫を抱き上げた。

「その猫、昨日買い物の帰り道ずっとついて来てたんですよ。まだ居たんだ」

新八は「まいったなぁ」と呟き困った顔で猫を見た。
自分の家は猫なんて飼う余裕はないし…万事屋なんてもってのほかだ。

「動物愛護に力を注ぐ真選組が全力を持って飼い主を…ぐはぁ!!!」

妙の裏拳が近藤の顔面に直撃する。


「ホント可愛いわぁ」
「野良猫でこれだけ人懐っこいって珍しいなぁ」

妙が猫の顎を撫でるとゴロゴロともっと撫でてよと言わんばかりに甘えてくる。

「新ちゃん、うちに置いてあげましょうよ。動物を愛護する事によって人に対しても優しい心を持って接する事ができるのよ」
「…やってる事と言ってる事が違いますがね」

笑顔で妙が近藤を踏みつけている様を見て新八が突っ込む。

「餌は仕事先から余った食べ物を持って帰ってくるわ。私も何か作ってあげるし」



ダークマターのことかぁぁぁぁ!!!!!!



…と、声に出すと怖いので心の中で叫んだ。


「仕方ないなぁ…」

新八はそう呟くとミルクか何かあったかな、と思い家の中に入ろうとした。

「…ん?」

ふと顔を上げると黒い煙のようなものが見えたような気がした。
どこかで何か燃やしているのかな?とも思ったが煙の臭いはしない。というかあんな中途半端に宙をさまようものだろうか。

妙も気付き黒い煙を見る。その煙のようなものは妙が抱いている猫に向かって一直線に降りてきた。


「え?」



刹那、妙の下にいた近藤が起き上がる。
踏んでいたものが突如動いた為バランスを崩した妙を左腕で受け止めた。右手で抜刀し妙の手から離れた猫に目掛けて突きをくりだす…が、猫は空を飛ぶように避け宙返りしたかと思うと弾丸のように近藤と妙を襲った。

近藤は妙を庇うように抱きかかえ後ろへ飛びそれを避ける。二人がいた場所には激しい音と砂埃と共に大穴が空いた。


「え?えっ?!えぇ??!!えぇぇぇ????!!!」

さっきまでのほのぼのムードは何?何だったの?!サ〇エさんがいきなりドラゴンボ〇ルになっちゃったよ!!助けて!!ドラーえ〇ーん!!!!

突然の事に腕で砂埃を防ぎながら新八はパニックになる。さすがの妙も目を丸くし唖然としていた。

近藤は妙を降ろし護るようにして刀を横に構えた平青眼を取り目の前にいる赤い目の猫を見据えている。


『石から出た煙に乗っ取られたらしい山崎は赤い目をしていたんでィ』


昨日、沖田から聞いた事を思い出す。





まさかこんなとこでお見えになるとは――






「誠を貫く愛の戦士、真選組局長近藤勲。忠義をもち愛する人護らん」





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