家族

12

「名前とか知らないんだろ?見つかるかね」

江戸東第二高等学校に向かう車の中、運転席の藤堂が助手席にいる山崎に聞く。

「髪は茶色、後ろで一つにくくってたぐらいしか」
「どこでもいるよな」
「…そうですね」

藤堂が横目でジロリと見ると「そんな目でみないで下さいよー」と山崎は情けない声を出した。

「あの、ちゃんと前見て運転してます?」
「してるしてる。お前が筋肉痛じゃなかったら運転まかせて助手席で寝てやろうと思ったのに」

藤堂は怠そうに運転席の窓の外枠に肘をついて手の平で頬を支える。
真選組には運転の荒い人が多い。できれば自分がしたかった、と心の中で山崎は思った。


「…何だか静かだな、沖田。そんなに制服が着たかったのか?」
「…へ?」

藤堂がバックミラー越しに後部座席を見ると沖田は驚いたように目を丸くしている。

「まぁ…凹助と違って現役いけるからねィ」
「……若くていいね」






『江戸東第二高等学校』

目の前の門にはそう書かれている。

とりあえず山崎が中に入れてもらう為に事情を説明しに事務室へ行く。

数分後、指でオッケーを作って戻ってきた。



三人は校舎内に入る。今はまだ授業中らしい。

「とりあえずひとクラスずつ見ていくか?連れて帰らなきゃ斬られそうだし」

藤堂の問いにうんうんと山崎が必死に頷いた。



「結構有名な進学校らしいですね」


山崎が小さな声でそう話す。

各教室からは先生の声と鉛筆の書く音しか聞こえない。廊下を三人が歩いていることすら気づかないみたいだ。

一学年に三クラス。全クラス見回るのにそう時間を要する事はなかった。

「このクラスで終わりですね」
「あ、あの子可愛い」
「…藤堂さん?」

ヘラッと笑い足を止める藤堂を山崎は白い目で見る。

「あ、すまんすまん。屯所にはオカマしかいないからつい…。で、それらしき女いた?」
「いないですねぇ…欠席だったりして」

隠密行動で養ったこの目が見間違う筈はない。「うーん」と山崎は唸る。

「あの騒動が耳に入ってるかもしれねぇしなぁー…逃げたとか………ん?沖田?」

藤堂は何か一点をジッと見つめている沖田に気付き怪訝な顔をする。
その目線の先は下駄箱で「五十嵐皐」と書いてあった。

「…ん?五十嵐…五十嵐…どこかで聞いた事が…」
「一年前」
「…!!…あ、あぁ…」

沖田の短い答えを聞き思い出したかのように目を大きくした。

「一年前?」

山崎が何それと言わんばかりに首を傾げる。

「クリスマスの二日前に起こった殺人事件。知らね?」
「去年のクリスマスは出張でしたけど?」

不機嫌そうに答える山崎の目は座っている。「みんなして俺を推薦したやないですか」とブツブツ言う山崎に「あぁ」と納得し、藤堂は苦笑した。

「その事件でしたら後から聞きました。確か女の人が刺殺されたんですよね?」
「そうそう。その事件の被害者の娘さんだっけ?この子。確か上から捜査中止しろって言われたんだよなぁ…」

その事件を担当したのが沖田だった。

あの時は荒れてたなぁ、と藤堂は亜麻色頭の子供を見て思う。中止だって言われてから副長と一週間ぐらい喧嘩してたっけ。結局局長が何とか宥めて収まったが。

「上が上が…って言いやがって。…義を見てせざるは勇なきなり、って言葉知らないのかねィ」

明らかに不機嫌な顔の沖田に藤堂は「うーん」と唸る。子供らしい真っ直ぐな正義感。大人の社会の仕組みは彼にとって難しいようだ。

「今日は欠席みたいですね。上靴がある」
「石の子も休みかね。下校時にまた来てみるか?」
「そうですね。…一応欠席者の名前メモっておきます」

山崎はポケットからメモ用紙を取り出すと下駄箱を順に見回りに行った。

「下校時まで何すっかなぁー」

バンダナ越しに頭を掻く。ちらりと沖田を見るとまだ不機嫌そうな顔で下駄箱を見ていた。

「団子でも食べに行くか。しばらくご無沙汰だろ?」

亜麻色頭の上にポンと手を置くと「子供扱いすんじゃねェ」と呟くも

「凹助のおごりだぜィ」

と言い門の方へ歩いて行った。
そんな沖田を見て藤堂は溜め息をつくと「ヘイヘイ」と返事をしてついて行く。


「ちょっ、待ってくださいよ…ア、アイタタ…」

山崎が慌ててメモをポケットに入れると筋肉痛のぎこちない動きで二人の後を追った。





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