家族

10

四人が一斉に土方を見る。

煙草をくわえ黒髪を掻きながら周りを見渡した土方は「ハァ」と溜め息をついた。

建物は半壊しとるわ、苦無はそこら中に刺さっとるわ、隊長格が二人も負傷しとるわ…
これはまぁ…よく暴れてくれたもんだな、と。

「ったく…とっつぁんにはボロクソ言われた挙げ句ウチの監察方がご乱心だぁ?!厄日か?今日は」

顔を歪ませ山崎を見た。ゆっくりと近づく。山崎は動かない。

「山崎。赤い目して兎になったつもりか?俺は武器をまき散らす為にお前を側に置いたわけじゃねぇんだぞ」

黒髪をボリボリと掻き山崎の前まで来ると赤い目を見据え胸を右の拳で軽く叩く。

「誠の心はどこ行った?地味に忠誠心ばかり育ってたじゃねーか。地味の器はでかいが義の器はちっせぇもんだったのか?」

煙草を左手に取るとフーと紫煙を吐き空を見上げる。




「…と、いう事で…」


山崎の胸から拳を離し顔を睨みつける。





「さっさと帰ってこいやコラァァァァァ!!!!!!」





胸から離した拳を思い切り山崎の左頬に殴りつけた。山崎の体は吹っ飛び木箱が積まれている方へ派手な音を立てながら突っ込む。



「おー…」と目を丸くして拍手する原田と永倉。

「土方さん、もっと早く来てくれたら良かったのに」
「バカ。これでも途中で抜け出して来たんだぞ」

土方は口を尖らせて言う沖田に顔をしかめる。




さて、戻ったのか、割れた木箱の方を見ると中で倒れている山崎の姿があった。頭の上に星が飛んでいるように見える。

「山崎ー…?」

斉藤は脇腹を押さえながら恐る恐る顔をのぞき込む。気絶しているようだ。

「また襲ってきたらどうするよ」
「縁起でもない事を言うなよ、右之」
「よーし!今の内に殺っちまうかィ?」
「コラ」

原田と永倉ものぞき込む。沖田はバズーカを担ぎ山崎に狙いを定めたが土方に頭を叩かれた。


刹那、山崎の体から黒い煙のようなものが出てきた。

「!」

また何か来るのかと全員身構える。段々煙は山崎の体から排出されるように上へのぼり一つになると最初の石に戻った。

「あ!あの石!!」

原田が叫ぶと同時に石は光りながらどこかへ飛んで行ってしまった。


「何でィ、ありゃあ」
「あれが元凶だよ」

石が飛んでいった方を見て斉藤が沖田に言った。






「うわぁ!!!!」

突如原田と永倉が後ろへ飛ぶ。

突然がばっと山崎が起きあがったのだ。キョロキョロと辺りを見渡す目は黒い。

「お」
「あ、…えーと、大丈夫?」

バズーカを担いだまま目を丸くする沖田とホッと安堵する斉藤。
土方は溜め息をつき煙草を口に加えた。

山崎は周りの現状を把握しようとしているのか呆然としている。



「えー…」

…よし、落ち着け山崎退。一歩退いて 物事を冷静に見、ことにあたれ、だ。

確か屯所で緑色の石を斉藤さんに見せて、光って、煙が出て…それからがサッパリだ。
ただなんか自分とんでもない事してね?と思ったような思ってないような…

つか何よりこの状態。周りは無茶苦茶だし、野次馬らしい庶民は自分を化け物のように見ている。
地面には自分の武器でもある苦無が数十本散らばり、所々血がついているではないか。よく見ると心配そうに自分を見ているポニーテール頭の青年が脇腹を押さえているが手は血だらけだし、小柄な青年の太股にまかれたスカーフは血に染まっている。頬を軽く切っているハゲ頭は「おーい」と言いながらペシペシと自分の頬を叩く。


人生のベスト3に入るぐらい嫌な予感がする。


「山崎?」と、亜麻色頭の子供が首を傾げて自分を見ている。そして隣を見ると黒髪の男が煙草をくわえ呆れた顔で見ていた。


…あ、これ、もしかして切腹じゃね?俺。切腹免れてもクビじゃね?


段々状況を把握し始めた山崎の顔が青ざめていく。


土方はそんな山崎を見て盛大に溜め息をつき近づいてきた。




「オイ、山崎」




低く発する声にビクッと肩が跳ねる。上司の顔を見る事ができず俯いている黒髪の頭の上にポンと手を置いた。






「でけぇ手掛かり見つけたじゃねーか。よくやった」






目が見開き弾かれたように顔を上げる山崎。

見上げた先にいた上司の顔がニヤリと笑った。





戻る

- ナノ -