家族



自分の身長程あるクリスマスツリーを嬉しそうに抱えた子が走ってきた。「走ったら転けるわよ」と向こうの方から母親らしき女の人が慌てて追いかける。

ベタン――

あ、転けた。永倉は心の中で思わず突っ込む。溜め息をつき泣き叫ぶ子供に近寄るとひょいと両脇を抱え立たせてやった。

「大丈夫か?ほれ」

転けた際に手から離れたクリスマスツリーを子供に持たす。

「ありがとう!!」

子供は泣きやみ笑顔になる。「すみません」と言いながら母親が近寄ってきた。

「あのね、これね、おウチでね、キレイキレイするんだよ!」

一瞬何のことかと思ったがすぐ家でクリスマスツリーを飾るんだなと分かった。

「おぉ、そいつは良いな!キレイに飾るんだぞ」

そう言い子供の頭を撫でると「うん!」と笑顔で頷き「バイバイ!」と言って手を振った。母親は永倉に一礼すると子供の手を引き去っていく。

屯所はまだツリー飾ってないなぁ、と思いながらその後ろ姿を見ているとポケットから携帯電話のバイブ音がした。取り出して開いてみると液晶画面には「原田」と映し出されている。


「もしもし?……はぁ?!何で?!……あ、あぁ、分かった」

怪訝な顔で携帯を切ると永倉は部下に先に行っているよう指示をする。

山崎が屋根の上走ってるから捕まえてくれ…って…猫か?あいつは獣化したのか?

電話からやけに切羽詰まった原田の声に不安を覚えつつとりあえず上を見上げる。

「んー……」

ここから少し遠い建物の屋根に黒い物が見えたような気がした。


「え?」


あれかな、と思っている間にもどんどんこちらへ近づいてくる。早すぎて山崎かどうかは分からない…が、目が人間の目ではなく真っ赤に光っていた事は辛うじて分かった。


「!」


屋根から永倉の頭上を飛び越える。手に苦無(くない)を数本持ち何かに向かって放とうとしていた。

赤い目線の先には先程転けた子供とその母親に向けられている。


「危ねぇ!!」


地を蹴り親子の元へ走り出した後に苦無が放たれた。



――苦無の方が早い。

瞬時にそう感じとると「チッ」と舌打ちをする。


(一か八か!)


腰の刀を鞘ごと外すと側にあった看板を思い切り親子の方へ叩き飛ばした。



見事苦無は親子に届く前に看板に弾き飛ばされる。苦無と看板が地に落ちると同時に親子を庇うようにして前に立った。


「あぁ…こういう事ね」


自分はこんなに冷静な奴だったっけ?
赤い目を光らせている見知った地味な男を前にして永倉は思う。

「逃げて」

永倉は前を見据えたまま後ろにいる親子に言う。母親は泣きだしそうな子供を抱え走り出した。

山崎はそれを見ると再び苦無を持ち、追いかけようと走り出す。

「ストーップ!!」

そうさすまいと正面から右手で鞘に入った刀を首に押し当て、左手で苦無を持った手首を掴んだ。そのまま足を払い仰向けに倒しその上に乗る。片膝で苦無を持っていない腕を押さえつけた。

「よーし!大人しくしとけよ…っぐ!!」

突如太股に激痛が走った。どこから出してきたのか片膝で押さえていた腕先の手には苦無が握られている。

相手が怯んだのを見ると山崎は瞬時に左手を苦無から忍刀に変え、永倉の左手を振り払うとそのまま首に目掛けて刺しにいく。

「くっ!」

永倉はそれを右手に持っていた刀で防ぐ。すると山崎は忍刀を離し永倉の腹に拳を打ち込んだ。

「っぐ!!」

後ろへ吹っ飛び地面を滑る。体の上に掛かる重みが無くなった山崎は飛び起き永倉に目掛けて苦無を放った。





「永倉!!」

ギィンギィンという金属音と共に苦無が地面に落ちる。

「ゲホ…ゲホ…っ!…」

呼吸できず咳込んでいると「大丈夫?」という声が耳元で聞こえてきた。斉藤だ。
永倉は袖で口元を拭い前を見ると刀を持った原田の姿が目に入る。何とか息を整えると太股に刺さっていた苦無を抜いた。止められていた血が噴き出してくる。

「…や、山崎のくせに…」

肩で息をしながら血の付いた苦無を放り投げ赤い目の山崎を睨んだ。斉藤は自分のスカーフを取ると永倉の止血に使う。

「何だかパワーアップしてるよね」
「アレで言うスーパー山崎って奴か?」
「んー、スーパー山崎2かな?あ、はい、刀」

斉藤から刀を受け取ると永倉は立ち上がる。

「くるぞ」

原田の言葉と同時に山崎がこちらへ走ってくる。

原田に向かって忍刀で一刀浴びせようとするが空を切る。後ろから斉藤が手刀で山崎の首を狙うが振り向きざまに苦無を投げられそれを避けるだけに終わった。

「あいつ…あんなに武器隠しもってたんだな」
「どうするかねぇ。周りも大変な事になってきてるしよ」
「んー…確かに」

斉藤は困ったように辺りを見渡す。周りは人集りができ始めてきた。山崎は隊服を着ているので一見仲間割れのように見える。これでは怪我とか世間体とか色んな意味で危ない。

「あ、あれだ!漫画とかであるじゃねーか!相手の心が打たれるような痺れる台詞を言った途端、ハッ!と我に変える」
「よし、言ってみろ、右之」
「え?俺が?」

自分で言っておきながら何だけど何で俺に振る?原田は自分の顔を指差しながら思う。
斉藤を見るとどうぞと言わんばかりに道を空けた。

ボリボリとハゲ頭を掻くとビシッと刀の剣尖を山崎に向ける





「お前より神山の方が数十倍存在感あるぞ」



ドォーン!!!!

山崎がどこからともなくだした小型爆弾を投げつけてきた。しかも一個だけではなく数十個。

「何でそれをチョイスしたァァァァ!!!!!」
「こ、心が打たれるような…」
「アホ!打ち傷つけてどうすんだ!!」

コントのようなやり取りをしながら逃げまどう原田と永倉。

「益々事態が悪化したような…」

斉藤は困惑した表情で周りの野次馬がパニックになりながら逃げまどう様を見た。



「ちょっとどいてくだせィ」

ふと後ろから声がした。斉藤が振り向くと隊長服を着た亜麻色頭がバズーカを構えている姿が目に入る。



ドォーーン!!!

爆音と共に山崎へ向かって一直線に放たれるバズーカ。山崎もろとも後ろの建物も破壊した。


「…」
「…」

原田と永倉は立ち上る白煙を見て唖然としている。



そんな無茶苦茶な事をする奴は真選組に一人しかいない。




「山崎ィ。反抗期かい?」


一番隊隊長沖田総悟だ。





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