駅でカナメくんを待つ。カナメくんはすぐにやってきた。カナメくんはジャージに黒の鞄という随分とラフな格好だった。クラスメートの家に向かいながら話を聞いてみると、クラスはC組らしい。

「部活は何をやっているの」
「バレー部」

 徹に慣れているせいで、すぐには気がつかなかったが、カナメくんの身長は決して低くはない。

 バレー部か、と心の中で呟く。伊達工業高校のバレーボール部は強豪だったはずだ。徹が教えてくれた気がする。下したけどね、という笑顔と共に。

「強かったよね」
「三年生はね。うちの学年はあんまり。ただ、この前入ってきた一年生が本当にすごくて」

 一年生の話を出した時、カナメくんの目はきらきらと輝いていた。僻みも何もなかった。純粋にチームが強くなったことを喜んでいるのだろうか。当たり前のことなのに、それがどこか眩しかった。

「一年生が強いのは頼もしいね」
「でも、不器用な奴がいて。それぞれ方向性は違うんだけどね」

 きっと一年生のことが好きなんだろう、と私は思った。話したくて仕方がないのだろう、とも思った。手のかかる、でも自慢の後輩でもあるのだろう。

「悪い子じゃなんいんだよね」
「そうそう、悪いやつじゃないんだよ」

 どこか困ったような笑顔だった。しかし、幸せそうな笑顔でもあった。もっと一年生のことが聞きたかった。カナメくんが一年生のことを話したそうにしていたし、何より一年生のことを嬉しそうに話すカナメくんを見ていると、幸せな気持ちになれるような気がした。

 ただ、これ以上後輩にたちについてしつこく尋ねるのもよくないだろうと思った。私はあまり人と話すのが上手くないことを自覚していた。

 私はカナメくんについて尋ねることにした。

「ポジションはどこなの」
「一人はミドルブロッカー、もう一人はウィングスパイカーかな」

 私は思わず笑ってしまった。体の力が抜けて、肌に擦れるワンピースがくすぐったかった。涼やかな風が肌に触れたような気がした。本当に後輩たちのことを気にかけているのだろう。

 私が笑ったせいか、カナメくんが慌てた様子で口を開いた。

「あっ、ごめん、俺のこと。俺はセッター」

 予想できないはずがなかった。ただ、何も考えていなかった。気にもとめていなかった。その口からその言葉を聞き、はじめてその言葉の意味の重みに気づいた。ワンピースが肌に擦れた。ざらりと嫌な感覚がした。背中が急に冷えていく。
 徹。唇がその名前を紡ぐために動きそうになった。セッターなんて、チームに何人もいるものではない。多くて二人のはずだ。その偶然に、私は徹のことを思い浮かべざるを得なかった。

「なまえちゃんは、自分を可哀想だと思うかい?」

 幼い頃、叔父が私にそう尋ねてきたのを今でも覚えている。私は、質問の意味が分からなくて首を傾げた。小学生の頃のことだったが、今でも覚えている。

 私の家は四人兄弟だ。姉、そして私と徹の双子、妹の四人。姉は私たちからすれば随分年上だった。そして、下の三人の年は近かった。

 徹は小さい頃は喘息持ちで体も弱く、他にも風邪や蕁麻疹で本当に大変だった。高校生の姉や父の帰りは遅かった。母は徹を病院に連れていっている間、私と妹は二人だけだった。体が弱く、手がかかり、ただ一人の男の子であった徹を、母親はよく可愛がった。姉や父も同じだった。子どもの頃の徹は、よく笑う可愛らしい子どもだったと思う。

 私は一人でいることが多かった。一人でいることを不安に思うこともなかったし、人の輪の中心にいないことが当たり前で、騒ぐようなことはなかった。それを妹は頼りがいがあると勘違いしたのだろう。姉が東京の大学に進学したのもあるだろうが、一つしか年が変わらないのに関わらず、妹は私をよく慕ってくれた。

 徹に比べたら、友だちも少なくて、勉強も得意ではなくて、運動も苦手だった。母親は私のことを愛してくれているとは思うけれど、徹の方が可愛いと思っていることは間違いなかった。ただ、私は自分が可哀想だと思ったことはなかった。

「なまえちゃんは、よく歪まなかったと思うよ」

 あれは中学生三年生の夏だったはずだ。妹と二人で行ったお使いの帰りだった。

「別に、徹のこと嫌いじゃないから」

 そう答えたような気がする。私は徹が嫌いではなかった。私と似ていない私の同い年の兄弟。

「私は徹のことが嫌い。だって、自分の嫌いなところが徹にあって、しかもその悪いところにあいつ自身気づいていないでしょ」

 妹は末っ子ということもあり、私よりは構われて育った。妹は徹とは気が合うらしく、クラスメートの愚痴などでよく意気投合していた。たとえ、妹が自身と徹との共通点を嫌っていたとしても、私は二人の持っているそれが少し羨ましかった。

 もう一人だけ、私をよく可愛がってくれた親戚がいた。それが叔父だった。そして、そのような叔父がいたために、私は徹の弱さを知ることになった。

「じゃあ、なまえちゃんは徹くんのことを可哀想だと思うかい?」

 叔父がそう尋ねてきたのは、私が徹の弱さを知った直後だった。

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