父には年の離れた弟がいた。それが、私をよくかわいがってくれた叔父だった。私が幼い頃、叔父は大学院にいた。祖父母の家にいくと、たまに叔父に会うことがあった。叔父は、私たちとよく遊んでくれた。徹によく似た顔だちで、記憶にあるのは優しい笑顔を浮かべた顔だった。
叔父は私たちをよく公園へ連れていってくれた。徹はどこに行ってもすぐに友達を作っていっしょに遊んでいた。ただ、私は人見知りだったので徹のように見知らぬ子どもたちと遊ぶことができず、叔父の近くにいることが多かった。
叔父はそんな私を可愛がってくれた。
「なまえちゃん、あの鳥の名前を知っているかい」
叔父は木の天辺にとまっていた小さな鳥を指さした。それは、私がずっと眺めていた小鳥だった。雀くらいの小さな鳥だったが、囀りはよく響いていて目についた。
私は首を横に振った。
「あれはもずというんだ。嘴を見てごらん。どんな形をしている」
私は目を凝らした。
「遠くて見えないよ」
「じゃあ、帰ったら僕の図鑑を見ようか」
叔父は笑った。それからしばらくして、お昼の時間になったため、私たちは祖父母の家へ帰った。
お昼ご飯を食べたあと、叔父は図鑑を出してきてくれた。叔父は図鑑を開いた。ページには茶色の鳥の絵が載っていた。そして、絵の上には大きな黒い文字で「モズ」と書かれていた。
「他の小鳥とはちょっと違うだろ。どこが違う?」
その時も私は答えを出すのにずいぶん苦労した気がする。他のページの鳥と見比べてみたり、形をなぞってみたり、色々なことをした。叔父はそんな私をじっと見ていた。待っていてくれた。
「嘴がくるっとしてる」
「鉤爪みたいでしょ」
叔父は私の言葉を言い直してくれた。
「なんで、嘴が鉤爪みたいになっていると思う?」
そして、私の出した答えにもうひとつ問題をぶつけた。
「先にヒントを一つ。モズがどこにいたのか、何のためにそこにいたのかを考えてみて」
叔父はすぐに答えを出す必要はないよ、と言った。私はずっと考えていた。だから、その答えを思いついたのはさらに後で、夕食時だったような気がする。
答えを思い付いた私は、隣に座っていた叔父の袖を引っ張った。
「モズは狩りをするから、嘴がかぎづめみたいになっているの」
「よくわかったね」
叔父が一瞬、目を丸くしたのが見えた。
「ワシとかタカと一緒だから。おじさん、前に教えてくれた」
普段は食事中に一言も言葉を発しない私が突然叔父に話しかけたものだから、両親が興味を持っていつの話なのかと尋ねた。今日の午前中だよ、という叔父の答えに、父親が随分と時間がかかったものだなぁ、と笑った。
「兄さん、長い間じっと考えられるのは、なまえちゃんのよいところだよ」
叔父は私に笑いかけ、父に向かって言った。
私は、新しいことが知りたかった。分からないことが知りたかった。考えるのか好きだった。決して頭がよいわけではなかった。考えるのが好き。たた、それだけ。私が持っていたのはたったそれだけだった。
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