窓を開けた。冷たい風が部屋の中には入ってきた。息を吸うと喉に冷たい空気が入っていった。

 女の子からの手紙は嬉しい。ただ、考えるのが面倒臭くなりそうなほどに、頭の中がめちゃくちゃになった。それは、きっと及川さんだからだろうと思った。彼女が俺のことを好きだという事実がどうしても上手く飲み込めなかった。そもそも、彼女が俺に何を求めているのかがわからなかった。手紙の通り、彼女は俺に何も求めていないのだろう。ただ、この手紙の意味を考えると、つまり男女の交際について考えると、何も求めていないということは許されない気がした。

 俺はスマートフォンを手に取った。時間は十五分しか経っていなかった。ただ、俺は十分だと思った。アドレス帳から友人の電話番号を引っ張り出し、通話ボタンを押した。

 友人はワンコールで出た。

「多分落ち着いた」

 電話の向こうでわざとらしい溜め息が聞こえた。

「お前さ、遅いんだよ。気づくの」
「普通は考えないだろ」

 及川さんは隣のクラスで、ほとんど喋ったこともなかった。まさか自分に興味を抱くなど考えるはずがないだろう。それに、及川さんは友人といつも一緒にいた。友人に気があると考えても仕方がないだろう。俺はそう思っていた。

「そういう問題じゃない。大体の人知ってるぜ。あいつも隠す気なかったみたいだからさ。多分、笹谷は知っていると思う」

 え、と間抜けな声が口から零れた。笹谷も知っているだなんて、毎日顔を合わせているのに俺は気づきもしなかった。

「あいつは分かりやすいじゃん」
「俺は鈍いのか」

 うん、と友人に即答される。人の気持ちに鈍い方ではなかったはずなのに、と思いながらベッドに倒れこむ。

「まあ、悪くないだろ。大体、申し入れもすごく控えめだっただろ」
「何で知っているんだよ」

 この時に既に俺の頭の中には、手紙について話をする及川さんと友人の姿が映っていた。
「だって及川見せてくれた」

 見せてほしい、と軽く口にする友人と、黙って手紙を差し出す及川さんの姿は、安易に想像できた。

「言っただろ、隠していないって」

 テンプレートのような女の子の反応ではない。俺のことについて尋ねられても、あっさりと答えていたんだろう。

 そのようなことを考えていると、窓を開けているはずなのに、暑かった。

「それで、どうするんだ」

 友人がそんな台詞を投げた。

 古風な堅い布団カバーを掴む。パリパリと乾燥した布団カバーぬ冷たさが、じんわりと手のひらに伝わった。

 俺のことが好きだという事実だけは、ぼんやりと受け入れることができたような気がした。

「付き合うって、なんなんだろうな」

 おそらく、付き合うということはもっと軽くて俗的なものだと俺は思っていたのだろう。カノジョはほしいし、及川さんのことも嫌いではなかった。ただ、そのような欲だけで彼女の手をとることはできないと思った。それは、彼女が及川徹と双子であることとは関係はなかった。彼女の双子が及川徹であることは、彼女を理解するひとつのヒントに過ぎなかった。

 俺は彼女にとってどのような存在になることができるのかがわからなかった。彼女の、できることをやりたいという言葉に応えるようなことができないような気がした。

「それを訊く相手は俺じゃないだろ。あいつと話し合えよ」

 友人のいうことは尤もだった。

「そうだね」

 体がじんわり冷えていたことに気付いた。俺は友人に礼を言いながら、片手で窓を閉めた。

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