一週間がたった。その日は寒かった。二番目の兄がふかふかのコートを着て、寒そうに帰ってきたのを覚えている。夜、鞄の中から見覚えのない封筒を見つけたときには驚いた。森のお化けのキャラクターの絵が小さくプリントされたアイボリーの封筒だった。

 思い当たることはなかった。ただ、封筒には俺の名前が書いてあって、他人宛のものではなさそうだった。その時は、行事の写真だと思った。ただ、写真はLINEなどで共有していて、現像するような手間をかけるようなことは不自然だった。

 小学生の頃から使っている橙色のハサミで封筒の端を切った。封筒の中に入っていたのは、二枚の便箋だった。小学生の女子でもないのだから、手紙をもらうような心当たりはなかった。

 俺は震える手で便箋を開いた。便箋も封筒と同じアイボリーで、森のお化けのキャラクターの絵が印刷されていた。

 柔らかい鉛筆で、丁寧な文字で書かれた手紙だった。とめはねのしっかりとした字だった。ただ、書いてあることは、書き手の性格を思わせる控えめなものだった。

 ただ、書いていることは衝撃的だった。

 読んでいる最中はまるで異世界にいるようで、理解をしているはずなのに関わらず内容は全く頭に入らなかった。頭がくらくらした。

 俺は三回も読み直し、深呼吸をしてスマートフォンを手に取った。電話をかける。

 事情を知らないはずのないと思える唯一の相手がいた。俺の友人はこのことを知らないはずがなかった。

 相手が通話ボタンを押すまで流れ続ける電子音が長く感じられた。

「おい、出ろよ」

 電子音に向かって吐き出した。

「どうした、カナメ」

 友人はこちらの気も知らず、いつも通りに軽く尋ねてきた。

「どうしたもこうしたも。及川さんはお前のことが好きだったんだろ」

 沈黙が流れた。

「カナメ、お前、やっぱり。まあそうだろうと思っていたけど」

 友人は呆れたような声だった。

「及川は最初に俺の家に来た日から、お前のことが好きだった」

 友人ははっきりとした声で告げた。

 頭を何かで殴られたような気分だった。思い返す。確かに、思い当たることはないわけではなかった。

 電車で、知り合いというだけで隣に座り、話しかけるようなことは、彼女のような大人しい性格では不自然だった。

「三十分後にもう一度かけてこいよ」

 電話が切れた。部屋は妙に明るく、そして静かだった。

 俺はスマートフォンをベッドに投げ、代わりに便箋を手に取った。


茂庭くん

 朝夕冷え込む季節となりました。
 茂庭くんは、いつも元気そうで安心しています。風邪を引いていた青根くんは元気になりましたか? 二口くんや笹谷くんも元気ですか?
 主将としてだけではなく、純粋に人として後輩たちのことを心配しているところが素敵だと思っています。茂庭くんは温柔敦厚で、私は茂庭くんとお話しているだけで安心します。私の兄のことをご存知だと思います。私は兄について語る言葉を今は持っておりません。私の兄についてはなにも聞かず、妹の話を聞いてくれて、私はとても嬉しかったです。私は兄のことに触れない気遣いをとてもありがたいと思いました。
 お手紙させていただきました理由を申し上げます。
 私はあなたが好きです。それを伝えたかったのです。
 私は、話をするにも、短いメールで簡潔に物事を伝えることも上手くできない不器用者です。
 明るく笑うことも苦手ですし、人を笑顔にさせることも苦手です。
 ですが、不器用なりに誠実に生きていこうと思っています。関わる人たちを大切にしていきたいと思っています。こんな私にできることがありましたら、もし、迷惑ではないのでしたら、なんでもさせていただきたいと思っています。
 このような不束者ですが、私でよければ、どうかあなたを支えさせてください。

及川

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