試験が終わった。答案は次々と返ってくる。休み時間に、俺は先程返ってきたばかりの数学の答案を見やった。点数は二十四点。立派な赤点だ。

「試験、どうだった」

 女子の声に慌てて顔を上げた。最初に視界に入ったのは例の友人で、そのまま隣に視線を動かすと、声の主が視界に入った。

 二人で行動をするなんて、随分と仲がよくなったと思った。

「化学は赤点免れたよ。ありがとう」

 及川さんにお礼を言うと、及川さんは少し困ったように笑った。褒められたり、感謝されたりすることに慣れていないようだった。成績もよく、運動もできないわけでもないだろうに、不思議だと思った。

「そして、数学は赤点だったんだな」

 俺の手元にあったはずの答案は、いつの間にか友人の手元に移動していた。ちょっと、と慌てて取り返そうとして立ち上がる。椅子の乱暴な音を響かせて立ち上がり、腕を伸ばしても、友人の手元には届かない。

「ねえ、茂庭くん」

 俺は体の動きを止めた。

「よかったら、答案見せて」

 及川さんの言葉に思わずえっ、と声が漏れる。しかし、及川さんは俺の様子がわからないわけではないだろうに、俺の様子を窺うかのように俺をじっと見ていた。

「茂庭くんがどういう考え方するのか、答案があればわかりやすいから」

 及川さんはようやく口を開いてくれたが、俺は彼女の意図がわからなかった。

 及川さんの表情が強ばった。

「ごめん」

 目は伏せられていた。俺はどうしてよいのかわからなかった。彼女の意図など二の次で、何を言えばよいのかを必死に考えていた。

「いいじゃん、わざわざテストを分析してくれるって言っているんだから、頼んじゃえよ。二十四点なんだろ」

 友人はやや早口だった。俺は友人の言葉で、及川さんが俺の答案用紙を見て、次は数学を教えてくれる気があることを悟った。及川さんは俺に余計なことをしようとして俺を不快にさせてしまったとでも思ったのだろう。

「ごめん、あの、ありがたいけど、それはさすがに申し訳ないよ。すごくありがたいけど」

 言葉はすらすらと出た。恐る恐る彼女の表情を見ると、暗い表情がぱっと明るくなった。

「私は構わないよ。茂庭君が部活行けないと、一年生の子が困る」
「ちょ、そんなことないって。俺、バカにされているから」

 俺の実力を考えれば青根と二口にバカにされても仕方がないと思っていた。二人とも礼儀正しい後輩だが、俺のことを頼りにはしていないだろう。ただ、もし、あの二人が俺を頼りにしてくれていたら、それはとても嬉しいことだった。

「まさか」

 友人と及川さん、二人の声が重なった。えっ、と声を出すや否や、友人の手元の答案用紙がひらりと翻る。

 及川さんは俺の答案用紙を丁寧に曲げた。

「じゃあ、預かっていくね」

 あの笑顔だ。そう思った矢先、細くなった目が流れるようにして廊下へ消えていった。俺はそれをぼんやりと見ていた。

8
back next
list
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -