彼女は友人の家で勉強を教えてくれた。友人は基本的には隣で見ているだけで、時々茶々を入れてきた。勉強をしなくて良いのかと問いたくなったが、元々化学は得意だった友人のことだ、薄々気づいていたが、俺のために彼女を呼んでくれたのだろう。再試のせいで、部活に行けなくなるという愚痴を本気で聞いてくれたらしい。お節介な人だと思うが、俺はここの友人の面倒見のよいところに救われてきたから、何も言えない。

 彼女は俺を焦らせるようなことをせず、丁寧に教えてくれた。銀色の洒落気のないシャープペンシルを動かして、俺と一緒に図を書いてくれた。俺は彼女は人に物を教えるのが上手いと思ったが、彼女は自分の仕事に不満があるらしく、帰り際に謝られてしまった。彼女は妹にも勉強を教えているらしく、妹のことはよく知っているため、俺に対して教えるよりも分かりやすく教えることができるらしい。

「わからないこととか、困ったことがあったら声かけてよ」

 彼女は真剣な目をして俺を見上げた。

 彼女の言葉に、友人は笑っていた。俺は、彼女が教え手としての矜持からそう言っていると思っていた。ただ、友人の笑いは、彼女が放っておけないほどに俺が化学を理解していないことからきているのだと思い、思わず彼の名前を強く呼んた。

 彼は一瞬だけぽかんと口を開けたが、すぐに元の表情に戻った。俺が本気で怒ったと勘違いしたのだろうと思ったが、このようなことは今までなかったため、俺は驚いた。ただ、そのように思われるのは勿論本意ではなかったため、すぐに笑顔を作った。

 友人は俺が何も言っていないのに関わらず、上機嫌な様子で俺を送ってくれた。

 駅までの道はやはり友人の話になった。いいやつだと言うと、彼女はそうだね、と答えた。

「何も言わなくても、何も言わずに助けてくれるから、好きなんだよ」

 彼女は大きな目で真剣に俺を見上げた。

 夕焼け空を背景に彼女は笑った。あの自然な笑顔だった。きっと彼女は友人のことが本当に好きなのだろうと思った。

 俺は彼女の言葉に頷き、恋っていいなあ、とぼんやりと思った。

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