小さな駅で彼女の姿はすぐに見つかった。黒いワンピースに白いカーディガンを着て、駅前のベンチの横に立っていた。体が細いのが際立っていた。大丈夫なのだろうか、と心配になった。気になって部活を尋ねると、部活は陸上部で長距離らしい。通りで必要最低限のものしかついていないように見えるわけだと思ったが、それでもどこか気がかりだった。

「部活は何をやっているの」
「バレー部」

 彼女は俺の半歩ほど後ろを歩いていた。俺は、背の高いバレー部の仲間と歩くいているときよりも、ゆっくりと足を動かすように気をつけて歩いた。

「強かったよね」
「三年生はね。うちの学年はあんまり。ただ、この前入ってきた一年生が本当にすごくて」

 賞状授与式でバレー部がたびたび表彰されていることを覚えていたのだろう、と俺は思った。

 今年のインターハイで引退した三年生に代わって、力を伸ばしてきたのは一年生だった。特に、二口と青根の二人のリードブロックは日々スピードが増していて、三年生よりも強くなったのではないかと思えてしまうほどだった。

「一年生が強いのは頼もしいね」
「でも、不器用な奴がいて。それぞれ方向性は違うんだけどね」

 しかし、その二人の一年生が悩みの種だった。青根はその顔と表情と、ぶっきらぼうな言動から、本人に悪気はないのだろうが、一部の二年生から生意気だと思われている。二口は言動自体に問題があるが、おそらくあのようなしゃべり方しかできないのだろう。人をからかって遊ぶような言動に、青根に対しては比較的好意的な鎌先ですら腹をたてている。

「悪い子じゃなんいんだよね」
「そうそう、悪いやつじゃないんだよ」

 彼女の相槌に同意する。青根は勿論のこと、二口も悪いやつではないと俺は思っていた。二人とも準備と片付けを本当に真面目にやるし、朝練にも参加をする。廊下ですれ違ったときも、必ず挨拶をしてくれる。

 しばらくして、彼女が口を開いた。

「ポジションはどこなの」
「一人はミドルブロッカー、もう一人はウィングスパイカーかな」

 彼女は笑った。俺はなぜ笑われたのかがわからず、ぽかんと彼女を見たが、すぐに彼女が笑っていた理由を悟った。今、俺の中は二人の一年生のことでいっぱいなのだろう。

「あっ、ごめん、俺のこと。俺はセッター」

 息を呑む音がした。一瞬だけ笑顔が消えたような気がした。

 彼女のその小さな表情の変化を気づかなかったわけではなかった。だから、中学の頃、彼女はバレーでセッターをしていて、何か悪いことがあってやめてしまったのだろうと俺は思った。俺は彼女にできる限りバレーの話をしない方がいいと思った。途端に、彼女に話をするのが怖くなった。

「すごくセッターらしいと思うよ」

 彼女の微笑はとても自然で、嘘偽りがあるようには見えなかった。ただ、それでも俺は先ほどの表情が気になって仕方がなかった。彼女の見せたあの表情が、どこかにつっかえてしまっていた。

「そう。ありがとう」

 そこからは、彼女が友人の様子について話をするのを聞いていた。

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