一週間ほどたった日の夜だった。スマートフォンのLINEに、見慣れない名前があった。クラスメートの女の子だった。だから、知らない名前ではなかった。クラスのLINEのグループから、アカウントを見つけてやってきたのだろう。

 クラスのグループを使わない個人的な一件の未読のメッセージ。それに触れる指が僅かに震えた。


明日の放課後、部活に行く前に少し時間をもらえませんか



 未読のメッセージは、俺の期待したものだった。俺は、いいよとだけ返事をした。

 俺のメッセージにはすぐに既読がついた。間もなく、屋上への入口しかない、人気のない四階を指定するメッセージが送られてきた。

 俺はスマートフォンをベッドの上に投げ出して、自分もベッドに倒れ込んだ。クラスメートの女の子のことを思い出そうとした。ほとんど話をしたことはなかった。ただ、このように俺を呼び出すような女の子は、俺に話しかけてくれたり、クッキーをくれたりする女の子とは一致しないことがたびたびあった。異性とはほとんど会話せず、クラスの隅の方で仲の良い同性数名と話をしているような女の子が多かった。そのように関わりのない女の子だったが、クラスメートくらいは覚えていた。

 なまえほど整った顔はしていなかった。俺は、白い肌と少しへしゃげたような幼い顔立ちを思い出した。なまえよりも小柄で、スタイルもよくはなかったが、どこか安心させるようなところのある、そんな可愛い女の子だった。

 おとなしいがコミュニケーション能力は高く、俺に話しかけてくるようなクラスの明るい女の子たちとも仲がよかったような気がした。

 悪くない、と思った。

 翌日、朝練のあと、教室に入るや否や件の彼女と目が合った。彼女は恥ずかしそうに目を伏せた。一日中、たまに思い出したかのように彼女の方に視線をやったが、顔を伏せていて一度も目が合わなかった。

 授業が終わると、俺はすぐに人気のない四階に一人で向かった。授業の終わった時間は早く、今すぐに行けば廊下にも人気がないことがわかっていたからだ。

 俺よりも遅れて、件の彼女がきた。高校に入って、何度目かの告白。俺は、それに用意していた答えを返した。

「いいよ、付き合おう」

 彼女は糸が解けたようにふわりと微笑んだ。緊張の混じった微笑だった。俺はぼんやりと考えた。ありがとう、の声はおとなしい彼女にしては、ずいぶんと大きいように感じられた。
 ただ、その子を見ながら、頭の中に浮かぶのは楽しそうななまえの声とあの伊達工のセッターの顔だった。

 伊達工と練習試合でもしないのかと思った。なまえの彼氏であることがもっと早くわかっていたら、先日の試合のときによく見ていただろう。話しかけていたかもしれない。

 あの素朴なセッターの存在が気になって仕方がなかった。

「及川くん、どうしたの。大丈夫」
「なんでもないよ」

 にっこりと笑うと、彼女は少し安心したように笑った。

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