里衣子との待ち合わせの場所へ行くと
息をきらし自転車のハンドルにもたれるミキと腕を組み右へ左へとその場を歩く里衣子がいた

兎崎に気づくとやっと来たかという顔で里衣子が駆け寄る

「電話で話した通り着物のばーさんがどうにもなんねぇんだ」

「お坊さんは?」

あれ?という顔で兎崎が見回すと「生きてりゃちびっこん家の前でうなだれてるよ」と里衣子が気まずそうに笑顔をひきつらせた

ユウタの家の前の通りまで歩くと
兎崎の背中ごしに向こうの方で道に座り込む坊主が見えた

「生きてっかな」と里衣子がミキに顔をよせるとミキは「きっと大丈夫よ」と顔をひきつらせた

どうやら道の端に座り込みがくんと頭をさげる坊主の前には老婆が立っているようで不気味な声が辺りに響きわたっていた

険しい表情の老婆の前でまったく動かないままの坊主を見るとミキと里衣子はもしかして最悪の事態になってしまったのかもしれないと、更にひきつらせた顔を見合わせた

不安げな顔をはなし2人は確認するよう暫く坊主を見つめたがまったく微動だにしない

背中を塀に預け頭を前にたらしている姿は抜け殻のようだった

坊主ならなんとか出来ると思ったとはいえ
置き去りにしてしまうなんてとんでもない事をしてしまったと徐々に坊主の方へ近づく足を進める速度が無意識に落ちていく

再びどうしようという顔を2人があわせたとき
前を歩く兎崎が足を止め振り向くと坊主を指差した

「なんかお坊さん怒られてるみたいだけど何かあった?」

眉をさげ笑う兎崎を見ると「え?」と里衣子とミキの声が重なった


「まるで投げたボールで窓ガラスを割って怒られてる子供みたいだよ大変な事になったってこれ?」

おかしそうに坊主の方を指差し思いきり笑いながら言う兎崎の言葉に2人はポカンとした顔をあわせた


やがて俯いたままの坊主の視界に自分のすぐ前で止められた兎崎の足がうつると
坊主は泣きそうな顔をゆっくりとあげた

「兎崎さぁーん…っ!」

これでもかと寄せられた眉とシワを寄せる口元は本当に怒られ泣いている子供のようだった

「2人は私を置き去りにするしこのお婆さんはなんだかすごく怒ってるみたいですが何言ってるのかわからないし逃げようとするとまた怒るし――」

と坊主は鼻をすするとこんな気分小学生以来ですよと目をこすった

ひとしきりおかしそうに笑うと兎崎は怒鳴りすんだのかじっと坊主を見下ろす老婆の方を見た

「何があったんですか?」

老婆はちらりと兎崎の方を見ると「はぁ」と息をはいた

「やっと話しの出来るお兄ちゃんが来たね。この人達は何話したって聞いちゃくれないもんだから」

老婆は眉をさげるとひと安心と言うように再び息をついた

兎崎は笑うと「それで?」と続きを促した

「ずっと向こうの方に川があるんだけどねぇ、その上の方に私がむかーし住んでた家があるのよ――」

老婆は自分がいなくなってから何十年と空き家になっていたその家が、
何年か前に起きた土砂崩れで半分流されてしまい大切な鏡もそのとき割れてしまった事を話した

兎崎がそこまでを3人に話すと里衣子が「ほらなやっぱ鏡なんだよ!」と目を丸くしたが
坊主が「里衣子さんが言ったのは呪いの鏡でしょう」と仕返しのように呟いた

「なんてこと言うんだいあの鏡は私の宝物だよ。嫁ぐときに嫁入り道具で持ってきた鏡台だもの」

老婆の言葉を聞き取った兎崎だけが「へぇ」と眉をあげた

その鏡は割れて土砂に混ざりいくつかの破片が川に流されてしまったらしい

割れてしまったままではなんだか悲しいからと川を探し歩いていた所ユウタがたまたま破片で足を切り、咄嗟に持ち帰ってしまったのだ

そして他の破片も見つけたのだが自分では拾いあげる事が出来ないためお願いするよう坊主達に手招きをしたそうだった

「人にものを頼むんだもの、ちゃんとお願いしますって言ってここにありますからって頼んでいるのにこの人達そっぽ向いたり逃げたりするんだもの」

どうやらそれで坊主に説教していたらしいがうめき声にしか聞こえない坊主には
お願いしますも説教もどちらもちゃんと伝わっていないだろう

兎崎が改めて説明をすると坊主はどこかきがぬけたような顔で鼻をすすった

「ところでユウタくんがその欠片持ってるみたいなんだけど…」

というと兎崎は里衣子を見てユウタの家のチャイムを指差した


「あいつなんでそんな大事な事黙ってたんだよ!」

と腰に手を当てると荒く息を吐き里衣子はずかずかと玄関に進みチャイムを押した

暫くたってドアの向こうにユウタの母が現れると里衣子は
「すみませんうちの弟が貸したゲーム受け取って来てくれって…あぁ見ればわかるんでお邪魔してもいいですか」
などととんでもなくでたらめな事を言ってあがっていった


「里衣子さんさらっと嘘言うわよね」

ミキが呆れた顔で後ろ姿を見送った

「でもたまに本当の事言うからわからないんだよ」

同じく呆れた顔で見ていた兎崎がそう言うとミキは一瞬ハッとした

以前里衣子が自分達をからかうように兎崎は幽霊だと言っていたのを思いだしたのだ

盗み聞きをしたとき殺されたと兎崎の口からの言葉を聞いているのだから今更なのだが

こうして兎崎を目の前にするとどうも本当なのかわからなくなる

うーんと考えるミキに不思議そうに兎崎が首を傾げた



暗い部屋の布団の中で未だ電話をするか夜明けを待つか悩んでいるユウタの部屋のドアを荒く叩く音がし
心臓を跳ね上がらせたユウタの返事を待つことなく里衣子がドアを勢いよくあけた

ベッドの上でこんもり丸まる布団の塊に
「おいちびっこ!」
と里衣子が声をかけるとその塊は驚いたようにビクッと一度動き続いて隙間からユウタの目だけ出された

里衣子が部屋の電気をつけるともそもそとユウタが顔をだす

「なんで里衣子さんがいんの?」

きょとんとした顔で見上げるユウタを里衣子はびしっと指差した

「おいお前川からなんかの破片持ち帰っただろ!?それ取りに来たんだよ!」

暫くユウタはなんだそれといったようにポカンとしていたが
あの日慌ててポケットに入れてきてしまった破片の事をやっと思い出すとベッドから飛び下り畳まれた洗濯物の中からズボンを引っ張りだすとポケットに手を入れた

「あれ、ない」

「はぁ、ない!?」

どうすんだよと言う里衣子の横で手当たり次第にズボンのポケットを裏返して行くとユウタは
「おかあさーん!俺のポケットのやつしらない!?」
と声をあげながら部屋を出ていった

「あ!ばか!ゲームとりに来たって言ってあんだよ!」と里衣子はその背中に言うと額に手をあてた


「ポケット?ポケットってなんか割れた破片なら入ってたわよ?」

テレビを見ながらユウタの母は答えると画面に流れる内容に笑いをこぼした

「それどこやった!?」

「どこって危ないから捨てたわよ?」

えぇ!と母の後ろで両手をだらんとたらすとユウタはその腕を駄々をこねるようゆらした

「なんで捨てんだよ!」

「まだゴミの日じゃないから出してないわよ今いるの!?」

そう言うと母は区切りのいいところぎりぎりまで画面に向けていた顔をテレビからやっとはなし
待ってなさいといい勝手口を出るとしばらくして破片を手に戻ってきた

「何につかうのよこんなの?」

ユウタは母からそれを受けとると調度玄関にむかおうとしていた里衣子に「ん」と言い渡した

今渡すなよ!と言いたげに顔をひきつらせると里衣子は
「あー…これも頼まれてて」と無理矢理つくった笑顔をユウタの母にむけ玄関から出た

サンダルを足に引っかけユウタも外へ出るとミキの姿を見て声をかけようとしたが
隣の兎崎に気づくと咄嗟にドアを僅かにしめ隠れた

まったくというようにミキと里衣子がため息をはき
眉を寄せ不思議そうにユウタを見ていた兎崎は「行こーぜ」と里衣子に背中を叩かれるとそのまま背をむけた


「これでユウタの熱もさがるわね」
と安心したように言うミキに「熱?」と兎崎が不思議そうに眉をあげると
ミキは破片を拾ってからユウタが熱をだした事を説明したが
兎崎によるとどうやらユウタの熱は破片など関係なくただの風邪のようだった

里衣子から破片を受け取ると兎崎はさすがに夜の川は危ないからと老婆と2人で川の方へ歩いていった

すると里衣子が
「さーてちびっこ探偵!お前どこまで盗み聞きした!?」
とニッと歯を見せミキを見た



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