川沿いを暫く登るとその場所はぽつんと現れた

廃村というよりは崩れかけの家が数件集まって建っているだけのものだった


内二軒は家の半分がすべり落ちてきた土砂の中に埋まったままだ

それでも例えば苔むしていたり木々に覆われて薄暗いとか湿気がひどいとかならまだ心霊スポットと間違えられてもわからなくもないがそんな事はまったくなく、

どちらかと言えば陽当たりがよく明るくて気持ちがいい程だ

先程の人達が肩を落とすのも納得な程不気味な雰囲気はひとつもない

足元に気を付けながら何かないかと家の中を見回す

綺麗に中が空っぽの家から僅かに置かれた物がそのままの家にと様々だ


置かれたままになっているのはいつのものかわからない程古ぼけた本や、
湯呑みに座布団、桶や草履に釣り道具などなんのへんてつもない物ばかりだが
その中でも何かありそうだと目にとまったのは土砂に半分埋もれた家にあった鏡台と、写真たてだ

鏡台は木製で低い引き出しの上に丸い鏡がついていて
大きな物ではないがいい物なのだろう
引き出し部分に細かな模様が彫られている
残念ながら鏡部分は大きくひび割れ破片がいくつか落ちている

写真たても同じようにひび割れ破片がちっていて
肝心の中の写真は陽に焼けたのか雨に打たれたからなのか
何を写したものかわからなくなってしまっている

この二つに目をつけたのは里衣子だったが
いずれもどちらも怪談話しに出てきそうだったからという理由で信憑性はない

「なんか簡単な理由ね…」

と呆れるミキに里衣子はなんだよと目を丸くし眉をあげた

「そもそもな、それっぽいもん見つけてきて言うのもなんだけどここに必ずちびっこが見た老婆に繋がる正解があるわけじゃないんだかんな。てか無い確率の方が高そうだけどせっかく来たんだからどうせなら理由こじつけてでもなんか見つけた方がいいだろ?」

里衣子の言葉にそれもそうだと二人は再びあちこち目をこらし、やがて鏡台と写真たての他には
坊主が硝子のケースの中に飾られたこけしを
ミキが玄関先におかれた木彫りのおかめのお面を怪しいのではないかという候補に推したが
里衣子の鏡台と写真たてが一番それっぽかった

鏡や写真ってのはだいたい定番でなんかあるだろと自信気に言い、
更に鏡台に関してはきっと呪いの鏡でそのせいで村人が出ていったここは廃村になり、割れた鏡から解放された幽霊がユウタを引き込もうと手招きしてるなどと
それっぽい話しまでするものだからよけいにだ

おまけにその話しのせいでそれ以外のこうではないかという可能性のある話しがまったく浮かばなくなった


「なんか里衣子さんって心霊スポットとかオカルト話し好きそうよね」

流暢に鏡の話しをする里衣子にミキが鏡台の引き出しをあけながら声をかける

「あぁ好きだよ」と答えると里衣子はそれがなんだよと眉をあげた

「ほら兎崎って心霊スポットとかそういう話し嫌いでしょ?里衣子さんも駄菓子屋手伝ってるけどなんか真逆だなと思って」

ミキはそう言うと何も入っていない引き出しにため息をつき閉めた

「別にあいつとは気が合うから知り合いやってるわけじゃねぇもんあいつはあいつだろ知らないね」

里衣子はそう言うとさてどうするかと坊主を見た

なんとなくそれっぽいものは見つけたがこれをどうするのか
ここからどう原因を掴むのかさっぱりだ


と、里衣子が「い!?」と言う表情をし明らかにそっぽをむくと内緒話しをするよう静かに口を開いた

「おい、あいつ来ちまったぞどうすんだ!?」

坊主とミキは里衣子の言う"あいつ"が着物の老婆だとすぐ理解すると
そちらを向かないようにしながら体を固まらせた

「どーすんだよにこにこしながら手招きしてたぞ坊さんがつれて来ちまったんじゃないんかあれ!?」

段々とこちらへ来ているのかうっすらと聞こえる揺れるような声が近づいてきている

目を合わせない程度に坊主は振り向くと確かに老婆は笑いながら手招きしこちらへ来ていた

何か言っているように口を動かしていたが風がすきまからはいるような音に似た声しか聞こえない

「坊さんうちの店主さんみたいに話し聞けないのかよ!?」

「無理です私には声は聞こえても言葉としては聞こえないんですよ…っ!」

暫く寄せるように合わせていた顔をそれぞれ見回すと「逃げよう」と里衣子が口にし二人は頷いた

顔を離し横へ引きずるようゆっくり足を動かしながらにこにこと笑みを浮かべ近付く老婆と距離をとっていく

と、ある程度離れた所で老婆は浮かべていた笑みを消し足早にこちらへ向かって来た

「おいおいおいおい!」と里衣子が徐々に声を大きくすると振り向いた坊主が咄嗟に経を唱えようと数珠を握ったが見事にはじけとび土の上をあちこちに転がった

「ええ!?」とあげた眉を曲げると坊主は背中にミキを背負い、
不安定な山道を下ってるとは思えない速さで里衣子と川沿いをかけおりた

「経を唱えたらあっという間に光に包まれて向かってくる敵を次々退散とか出来ないんかよ坊さん!?」

「そんっなフィクションみたいなかっこいい事出来るわけないでしょう!?出来たら今頃坊主じゃなくてヒーローやってますよ!」



一度も足を止める事のないまま商店街まで走るとたまたま目についた喫茶店のドアを掴みそのままの勢いで店内へ流れ込むと
3人はいらっしゃいませの声もろくに聞かないまま崩れるようにソファー席に滑り込んだ

ぐったりと背もたれに体をあずけると天井を見上げたまままったく整いそうもない呼吸が落ち着くのを待つ

店内は3人の斜め向かいに携帯で何か調べながらメモをとっている客が一人いるだけで
そのぺんを走らせる音とわずかに流れるBGM、古いクーラーの動く音だけが静かに店内に流れている

が、3人の耳には煩い程自分の心臓の音が響いていて殆ど聞き取れなかった

やがて店内の奥からカラコロと涼しげな音をたて水が運ばれてくると里衣子は一気に飲み干し勢いよくグラスを置くとやっと潤った喉から声を絞りだし注文を通した


調度息も整い目の前に飲物が運ばれて来た頃
斜め向かいの客が調べものが終わったのかメモをカバンにしまい会計を頼んだ

これで気兼ねなく話しが出来ると思い里衣子は体を起こすとアイスティーのストローをくるくる回した

「結局何も解らずじまいだったな」
頬杖をついたままストローをくわえるとその先でアイスティーが半分まで量を減らした

「兎崎さん暫く駄菓子屋に戻らないんですか?」

「さーね、忙しそうにあっちこっち行ってるみたいだからな、今回は依頼の事も手掛かりになりそうなもんだけ受けりゃいいとか言ってたくらいだからいつ戻るのか知らないね」

里衣子がそうストローを離したとき
会計のため席をたった客が3人の席の横を通り過ぎた足を遠慮がちに戻した

「すみません、その駄菓子屋ってちょっとオカルトな依頼うけてくれるっていう所ですか?」

横からの声に顔をあげると申し訳なさそうな顔で女性が立っていた

先日兎崎の懐中時計を拾い渡した女性だ

「依頼したい事があってお店の場所調べたんですがこの辺りって事しかわからなくて」

と困ったように笑うと女性は「この近くなんでしょうか」と3人を見た

「ここから5分も歩かない所だよ昔呉服屋だった場所って言やその辺の人に聞いてもわかるけど今店主留守だぞ?あたしが代理で聞いてもいいけど急なら……」

そう言うと里衣子は紙ナフキンを一枚とり「ペン」と言うと女性の前に手をだした

カバンから出されたペンを受けとると里衣子は紙ナフキンの上に地名や建物の名前をいくつか書いた

「たぶん店主見つけるとしたらこのうちのどっかが一番あたると思うんだけどな…見りゃすぐわかるよ白い髪に着物にTシャツの奴だ」

女性はそれを聞くと「あ!」という表情をし頭をさげると急いで会計をすませ走っていった


「つかちびっこ常連の話しも兎崎に頼んだ方がいいんじゃねぇか?」

坊さんの数珠も駄目んなっちまったしさと女性が走っていった方から店内に視線を戻すと里衣子はミキを見た



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