「あんた散々お世話んなっといて失礼なやつね…それだけじゃないって他にはなんなのよ」

とため息をつくミキにユウタは布団に顔をうずめたまま黙っている

「他はなんなのってば」と何回か聞いたが無言のままのユウタにいい加減痺れをきらしたのかミキが声をあげる

「どうせ本当は怖いだけなんでしょ!本当に幽霊なのかだってまだわかんないのに!あんたもう何かあっても兎崎に泣きつくんじゃないわよ!」

「いいよお坊さんに言うもん」


そうユウタが言ったとき部屋のドアを洗濯物を手にいっぱい持つ母があけた


「さぁ皆、長居するとうつっちゃうわよ」

ユウタの母がそう声をかけるとお邪魔しましたと元気な声をあげながら三人は部屋をでた

母は洗濯物を机の上に乗せながらユウタに話し掛ける

「そうだユウタ、これポケットに入ってたけどこんなの持ってたら怪我するわよ?いるの?」

返事のかわりにベッドからは静かな寝息が聞こえてきた

母は布団をかけ直すとエプロンのポケットにそれを入れ部屋を出た


その夜も昨晩同様目を覚ましたユウタは再び着物の老婆を目にした

ただ昨晩と違っていたのは老婆はしっかりとこちらを見ていて手招きするよう手を動かしていた

ユウタは朝飛び起きて一番にミキに電話をすると泣きそうになりながら昨晩の事を話した

きっとあのおばあさんは自分の事をあの世へ連れていってしまおうとしているに違いないと鼻声で言うユウタに
「なんで私に泣きつくのよ!」
と電話をきるとミキは坊主の元へ自転車を走らせた

うーんと頭を悩ませ坊主はわからないといった顔で暫く考えたが
川で声を聞いてからならもう一度川に手掛かりを探しに行こうと提案した


「ユウタ君川で声を聞いたほかに何かかわった事なかったかい?」

「ううん、何も言ってなかった。ちょっと足切ったくらいよ」


さらに「うーん」と首を傾げる坊主は川で聞いた声に負けない程の唸り声をあげた

「よーぉ、お二人さんこんな暑い中散歩か?」

後ろからの声に振りかえると黒地に白い"駄菓子屋"の文字が目に入り
続いて暑さで溶けそうな表情をしている里衣子のだるそうな顔が見えた

ご精が出るねと言いながら肩を並べる里衣子に「これから駄菓子屋ですか?」と坊主がたずねると
里衣子は「そーそー」とTシャツの襟元をばさばさと扇ぎながら暑さに眉を寄せた

「さっきまでスーパーの鮮魚コーナーで涼んでたんだけど今日もうちの店主さんは欠勤だからあたしがこれからご出勤」

駄菓子屋に扇風機つけろってちゃんと言っときゃよかったとぶつぶつ文句を言ったあと「そっちは?」と里衣子は二人をみた

「それが…」と坊主がユウタの件で川へこれから行く事を話すと
里衣子は「お!」と何か面白いものを見つけたような顔で目を丸くし「怪談なんて夏らしいじゃんか」とニッと笑い
調度駄菓子屋方面と川へ行く道が別れる所で「それでは」と挨拶しようと足を止める坊主を横目に里衣子は川の方へ続く道を歩き
「何止まってんだよ」と言いたげに振り向いた

坊主は「あれ?」と駄菓子屋の方の道と里衣子を交互に見る

「あの、駄菓子屋は?」

「今日は休みって決めた。どうせやってない事の方が多いだろあの店?」

どうやら一緒に川に行く気なのか「川の方が涼しいしな」と言いながら背中をむけると里衣子は二人の前をすたすたと歩いた



川へ着くと、先日の車がまた川沿いに止まっているのが見え
調度あの日の男女が車へ戻ろうとする所だった

ミキは車へ駆け寄るとドアを閉めようとするのを走りながら呼び止めた

「すみません!あの…っ!」

その声に気付くと閉めかけたドアから運転手が顔を出し声の主をさがす

砂利を乱しミキがドアの手前に止まり、膝に手をあて呼吸を整える

「あの…っ!心霊スポット、行って来たんですか!」

運転手は車の中の仲間と顔を合わせると口を開いた

「なに君も行きたいの?」

「え?いや…そうじゃなくて…」

すると後部席の窓が開き、顔を覗かせた女性が話し掛ける

「行かない方がいいよだってなーんにも出なかったし本当つまんない」

そのつまらないという言葉が気に障ったのか女性とその隣の男が言い合いを始めた

ミキは戸惑いながら運転手にもうひとつだけ質問をした

「その心霊スポットで噂になってたのって着物の人ですか!?」

「違う違う。そもそも噂もなにもどうやら心霊スポットですらなかったんだよねただの廃村。」

後部座席から「そうそうこいつがちゃんと調べなかったから」という文句が再び聞こえ
徐々に喧嘩へと発展する声を乗せ車は砂利を踏みならし道へと出ていった


もしも心霊スポットの噂の内容が聞ければ何かヒントになるかもしれないと思ったが
どうやら、というよりやはり心霊スポットという噂間違いだったようだ

ミキは肩を落とし車の去っていった方を暫く見詰めると
どうしようと坊主と里衣子を見た

「それでもなんかあるかもしんないし上流の方行ってみるか?」

さっきの人達見る限り廃村までそんなに登らなくても着くんだろうと川の上の方をさす里衣子の提案に頷くと
坊主は「ん?」と眉を寄せ里衣子の後ろの景色に目をこらした

なんだか川の中に人が立っていて、それがゆっくり手招きしているように見えた

坊主は何度か瞬きを繰り返すと更に目をこらす

やはり見間違いなどではなく川の中に立つ人は僅かに笑い手招きしている

はっきりとは見えないがどうやら着物を着ているようだ

恐らくユウタが見たという人物と同じなのだろうと思い坊主は何かわからないかと目を細めたが、それに気づいた里衣子が「おい!」と坊主を呼んだ

「なんか見えてんのか?見えてんならあんま見んなよ。よく言うだろ見えても目合わせたりすんなって」

助けてくれると思ってついてきちまうぞと言いながら川からあがると里衣子は上流の方へむかって歩いた

坊主はハッとしそれから目をそらすと慌て里衣子の後を追った

川に立つ人物はさっきまでの笑顔を消すと手招きしていた手をさげその後ろ姿を見詰めた




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