想定外です。 | ナノ



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「まあ……なまえちゃんの事は学園の方でもいろいろ調べてみるから」

(止めてくれ)

「君が空から降ってきたのは事実だし……もしこれがなまえちゃんのアリスが暴走した、とかじゃないとするなら……」

「他のアリス保有者による事件の可能性もありますからね」

「うん……その可能性は高いね」


 鳴海先生曰く、アリス(他人を移動させるタイプの瞬間移動等)を使った誘拐事件が何らかの形で失敗して、その結果私がここまで誤って飛ばされてしまった可能性も無きにしも非ず、らしい。いや無いよ。だって次元超えてるもん。タイムトリップならぬ……何?次元って英語でなんて言うの?ディ……?まあいいや。次元トリップのアリスでも持ってたりするの?私。

 殿先輩は「親御さんの了承がー」とかなんとか言っていたけど、やっぱり私はこのまま戸籍不明でアリス学園に連行されるっぽい。まあ名前と年齢が分かってれば上出来でしょ。

 アリス学園に行ったところで、きっと私は高等部二年あたりに編入になるだろう。高等部ならば、私が自ら動かない限りあのゴタゴタに巻き込まれずに済むはず。最後の方は多分強制的に参加決定かもしれないけど、そこでもモブAを演じれば特別面倒な人達に目を付けられることもあるまい。


「ところで、コイツのアリスって“ 音のアリス”っすよね?静音ちゃんの“ 音色のアリス”は、自分が鳴らした音なら相手を操る事も出来ますけど、こんな風に木を破壊したりとかは出来なかったハズ……」

「そうだね……山之内さんとは少し種類が違う感じだね。もう少し調査が必要だけど、恐らくなまえちゃんは体質系……」

「危険能力系だ」


 鳴海先生と殿先輩の会話を遮って、それまで存在が空気になりかけていたペルソナがそう言った。


「危険能力系って……それは、」

「鳴海先生もご覧になられたでしょう。彼女の能力の強さは並大抵のものでは無い……それこそ棗と同じレベル、もしくはそれ以上だ」


 ちょいちょいちょいちょい、ちょっと待ってくれよ。何この突然のシリアスムード。ついていけんわ。おまけに棗と同じレベルもしくはそれ以上?待って。何それ。ガチ目にトリップものあるあるになりかけてる。
 でもそう言われてみれば確かに、私はかなり控えめに口笛を吹いたのに大きな木が雷に打たれたかのようにベキベキのボロボロになっている。いつも家でやっているように、家族に「騒音」「うるさい」「蛇が出る」「合奏会かよ」「近所迷惑」「カラオケでやれ」とクレームをくらうレベルの大音量で吹いていたら、一体どうなっていたのだろう。


「でも彼女はまだ……!」

「時間の長さなど関係無い。あるのは力の強さだけだ……彼女のことは私から校長に話をしておこう」


 そう言うとペルソナは、反論している鳴海先生を無視してスタスタ長い足でどこかへ歩いていってしまった。それを呆然と見送る私達。ええ……どうすりゃいいの……私変な任務とかやりたくない……てか勝手に喋って勝手に決めて勝手に帰るなよ。残されたこっちが辛いわ。


「まあ……そこら辺もおいおい慎重に話していくから。なまえちゃんは何も心配しなくて大丈夫だからね!」


 鳴海先生が優しくフォローしてくれてお礼を言う。今この場にあなたがいて本当に良かったよ。

 「僕達も学園に帰ろうか」という鳴海先生の台詞に、殿先輩が気まずそうな顔で頷く。二人の後に私も続いた。
 鳴海先生は歩きながら、新入生である私のためにアリスについての詳しい説明をしてくれた。全部知ってるから聞き流そうかとも思ったけど、私の記憶違いがあったら困るし、なにより今後のために復習も兼ねてちゃんと全部聞いた。

 やっぱり私は高等部二年で殿先輩の一個下の学年に編入になること。高等部はかなり変わっていること。普段のクラスとは別に能力別クラスがあること。能力のカタチのこと。家族とは会えなくなること。学園内には生活に困らないようにいろいろな施設があること。能力の高さによって階級があること。クリスマスや学園祭などのイベントが盛り沢山なこと。鳴海先生がメインで喋って、それに殿先輩が面白おかしく補足をしてくれて、二人は私が未知の世界に足を踏み入れやすいように丁寧に話をしてくれた。


「ほら、なまえちゃん。アレが今日から君が暮らすアリス学園だよ!」


 二十分くらい歩いたところで、鳴海先生が前の方を指さしてそう言った。その方向を見れば漫画と全く同じ外観の建物が見えてきて、私のテンションもぶち上がる。
 

「まー変な学校だから嫌なこともいっぱいあるかもだけどさ」


 ごごごごごー、と門が開く。
 まるで某夢の国にいるみたいな感覚だ。敷地内に入った瞬間、今までいた世界とは違う空気に何だかわくわくする。

 「お前、もう既に前途多難っぽいし」殿先輩が自分の頭を掻きながら言う。ホントそれですよね。大人しく静かに生きようと思ったのに。これから待ち受けるであろうやばい事件をどう躱していこうかとか、親どうなったんだろうとか、卒業後はどう生活していけばいいんだろうとか、考えなきゃいけないことはたくさんある。だけど。


「それ以上にめいいっぱい楽しいこと見つけてやってこーぜ。なんせここじゃ何だって楽しんだもん勝ちだ」


 殿先輩のその台詞に、私は全力で頷いた。








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