想定外です。 | ナノ



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 殿先輩の素敵なお言葉と共にアリス学園に入場し、学園本部へと移動。鳴海先生によると、学園本部には先生達の部屋の他に病院も併設されてるんだって。いや意味分からん。そこは別にしとこうよ。セントラルタウンに移動しとけ。
 鳴海先生的には、私が高等部に入学だから最初は高等部の案内をしたかったみたいだけど、いろいろな手続きとかさっきのペルソナの件とかでまず本部に移動してから……ってことになった。

 そういや今って何時くらいなんだろう。私が学校が終わったのは十六時過ぎだったはずだけど、今はどう考えても午前中。少なくとも夕方では無いなって空。
 鳴海先生に現在の時間と曜日を尋ねてみたら、「今日は金曜日で、時間は十二時をちょっと回った所かな」らしい。曜日は一緒だけど時間はズレてるのか。謎。


「明日は土曜日で午前中の三時間だけ能力別授業があるんだけど、なまえちゃんはまだ能力別クラスが分からないから……そうだなあ、早くて次の月曜日から登校って感じかな」

「了解っす」

「明日明後日と学園内をいろいろ見て回って早くここに馴染んでもらいたかったけど、恐らくこの二日間は手続きと君のアリスの調査なんかでそんな余裕はないかもしれない」


 ごめんね、と申し訳なさそうに言う鳴海先生に「大丈夫です」と返事をする。ネットサーフィンが出来ないのは残念だし調査って何!?って感じだけど、これ絶対私に拒否権とかないやつだもん。YESかはいの選択肢しか与えられてないやつだからね。記憶を覗くアリスの人とかに調査されたらヤバいやつ。

 ……あれ?てか今気付いたけど私の荷物どこいった?
 教科書や空のお弁当箱、スマフォ、お財布、リップクリーム、折りたたみの傘、食べかけのDARSのミルク、その他もろもろが入った私のリュックが全て無くなっている。

 鳴海先生も殿先輩も、リュックは私が落ちてきた時点でそもそも無かったとの事だった。お、お財布ーッ!


「ま……まあ、これから星階級別にお小遣いもきちんと支給されるし!ねっ!」

「そーそー!んな気にすることねーって!お財布はセントラルで買えばいいし!なんなら女子向けの可愛い店、今度案内してやるし!」

「なまえちゃんのアリスの強さの感じだとダブルは確定!お小遣いはなんと五千円!」


 私の両脇でワーワー励ましてくれる二人の声が頭を滑る。私のお財布の中に入ってた全財産、なんと!一万二千円だったんですよ。七千円マイナスなんですよ。ななせんえん。いつも三千円くらいしか入ってないのに、何故か今日はたまたまちょっとリッチな日だった。もー本当こんな日に限って!なんて日だ!
 悲しすぎて、でも二人の優しさを無下にも出来なくて「で、ですよねーっ!」と乾いた返事をすることしか出来ない。二人の優しさが身に染みる。もう過ぎたことをグチグチ言ってもしょーがないし、お言葉に甘えて今度殿先輩に可愛いお店紹介してもらおう。そうしよう。


 そんなこんなで、気付けばアリス学園本部が目の前に見えてくる。
 少しの悲しい気持ちと、非現実的な建物にワクワクする気持ちを抱えつつ、鳴海先生の案内でアリス学園本部の長くて豪華な廊下を歩く。時々すれ違う学園関係者らしき人の視線から逃げるように殿先輩の後ろに身体を動かせば、殿先輩はそれに気付いてさり気なく自分の歩く場所を変えて私を隠してくれた。


「あれは学園の事務員だよ。名前は知んねーけど。確か自動筆記のアリスだったハズ」


 えっ何それ。超便利じゃん。勝手に文字書いてくれるの?授業にすごい使えそう。でもパソコンが主流になりつつある今の令和の時代だと時代遅れのアリスなんだろうか。他にもすれ違った人のざっくりした詳細を殿先輩が説明してくれる。私が知らない初等部の先生とか病院関係者とか、あとは外部から来た非アリスの関係者とか。結構思ってた以上に人がいるっぽい。私はあくまで本編に出てきた主要メンバーのことしか知らないしな。

 しばらく歩いたところで、殿先輩が「んじゃあ、俺はこっちなんで」と鳴海先生に告げ足を止める。どうやら鳴海先生とは別に報告しなきゃいけないところがあるらしい。こっちなんで、と言って殿先輩が指さした方角は、まさに今私達が歩いてきたところだった。

 えっ?もしかして私を周りの視線から隠すためにわざわざ遠回りしてくれたってこと……?頭の上にハテナマークを浮かべる私を見て、殿先輩はニヤッと笑った。


「じゃーな、なまえ。今度また会いに来てやるから。セントラル、絶対一緒に行こうぜ」


 約束だかんな!そう言って、ひらひらと手を振りながら殿先輩が廊下の角を曲がっていった。


「……モテそう」

「いや、実際モテるよ」


 思わず出た私の呟きに先生がそう返す。ですよね。あれにオチない女子がどこにいるレベルのイケメンでしょ。ありゃ女取っかえ引っ変えするわけだよ。女性側がほっとかないでしょ。私も今ちょっとやばかったもん。「いろんな人と噂があるけど……まあ優秀な子だし、本人が責任持ってやってるから良いかなって」鳴海先生がエヘっと笑う。それでいいのか、アリス学園。

 鳴海先生が私達の目の前の扉を開く。どうやら応接室のような部屋らしい。だだっ広い室内にやたらゴージャスな家具が置かれていて逆に落ち着かない。ここはアメリカか?どんだけ土地有り余ってるんだ。うちの田舎も、ちょっと上に行った所だとやっぱり土地があるから大きいお家が多かったけど、確実にこことは土地代が違いすぎる。絶対倍以上あるでしょ。怖。


「とりあえず、なまえちゃんはここで待っててくれるかな?何も無くて申し訳ないけど、君のことを上に報告してくるから」

「はーい、分かりました」

「あ、あと制服のサイズも聞いていいかな?」


 鳴海先生曰く、このまま学園から出られないのは確実だから制服や教科書なんかの必要品も一緒に揃えてきてくれるらしい。高等部の寮の部屋の空きを確認したりもしなきゃいけないとかで、でもそこら辺はさすがアリス学園、いろんな方のアリスを駆使して「一時間くらいで戻ってくるからね!」とのことだった。普通にやったらもっと時間かかるでしょ。すごいな。


「検査の事とかで不安な気持ちを抱えてるかもしれないけど……それ以上に楽しいことも沢山待ってるからね!」


 お礼の言葉と共に制服のサイズを伝えれば、鳴海先生が私の肩に手を置いてそう言った。じゃあちょっと行ってくるね、と先生が部屋を出ていく。

 鳴海先生の言った通り、この部屋には私の暇を潰せるほど面白いものは何も無さそうだった。だからこういうときにスマフォがあれば……!スマフォにインストールしてあったパズル系のアプリに思いを馳せながら、ただただ空を見つめる。ほんと、現代っ子はこういう時何をすればいいんだろう。


「てか本当、検査とかされたら私の命がやばいのでは……?」


 下手したら今日が私の命日になる可能性……?やばい、めっちゃウケる。次元の違う場所で死ぬってどういう状況なんだろう。三次元の私はどういう状態で存在しているのだろう。というより、存在しているのだろうか。


「…………」


 お高そうなソファーにゴロンと寝転がる。足りない頭でいろいろ考えてみたけれど、どう頑張っても私には本編に出てきたこと以上の話を想像することが出来ない。逆に言えば、本編は完璧に把握出来ているのだ。

 そうだ。これから学園祭やクリスマスパーティが待っているんだ。鳴海先生や殿先輩の言っていたことを思い出す。「それ以上に楽しいことも沢山待ってるからね!」「ここじゃ何だって楽しんだもん勝ちだ」そうだ。考えても分からないことはひとまず置いておこう。何の因果か、せっかくアリス学園に来たのだからどうせなら思いっきり楽しんだっていいじゃん。


「……なんか眠くなってきたな……」


 どうやら自分でも気付かないくらい緊張していたらしい。そりゃそうよ。元気に三次元を生きていたら突然二次元に飛ばされたんだから。ここまでその事に気付かなかったのはきっと、あの二人がそばにいて私のことを気遣ってくれたおかげでもあるのだろう。

 ふかふかするソファーの心地良さもあいまってウトウトする頭で楽しいことを考える。そういや、私ってどのクラスに編入なんだろ。高等部って三年とか二年って括りはあったけど、初等部みたいなクラス分けってなかったよね?じゃあ私は五島さんと同じクラスかな。五島さんっていつ頃から初等部校長に操られてたんだろう。それがなければ多分いい人だと思うんだよね。でも心読み君とかパーマとも仲良くなりたいし……いやでも、殿先輩とも同じクラスになりたかったな。

 あれっ。そういえば今は原作でいえばどこら辺なんだろう。あれっ、私学園祭出られるのかな。いや一年待てば出られるだろうけど。もし叶うなら特力系の迷路に挑戦したい。多分危力系っぽいし、出店側にはなれないだろうけど一般参加はできるもんね。


「……どんなお財布買おうかなあ……」


 前のやつはバイカラーの長財布だったから、今度は折りたたみのシンプルな色合いのやつがいいな。殿先輩とセントラルタウンに行ったら絶対ホワロン買うんだ。楽しみだな。


「…………」


 そんな事を思いながらにやにやしていたら、いつの間にか意識が途切れていた。


────


「……ちゃん、……なまえちゃん!」

「……っ!」


 切羽詰まったような鳴海先生の声で目が覚める。もう一時間経ったのか。
 すみません、と言って起き上がれば、“高等部の ”女子生徒の制服を持った鳴海先生が困惑したような表情で私を見る。


「おはよう……ござ、います……?」


 あれ、おかしいな。さっきよりもソファーと部屋が広く感じるぞ?てゆーか、服が。服がダボダボなんだけど……?



「……君は、伸縮のアリスでも持ってるの……?」

「……んなわけないじゃないですかぁ……」


 多分ね。二人して事態を受け入れられずに苦笑いを浮かべる。
 寝ぼけ眼状態でも分かる自分の身体の変化。これは……まさか。トリップ物でよく有りがちなアレか。


「……私……縮んでます……?」

「もうそりゃ見事に……」




 どうなる、私の学園生活。









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