Diary
▼ 視線
私のこの青色の目玉は、生れつき好奇心旺盛なようで。ちょっと油断すると、あちらこちらを忙しなくぐるぐると動くのだ。飛ぶ鳥。二階建てバス。おもちゃの時計。路地裏の猫。山高帽。捉えては離れ、離れては捉え。――あ、ぶつかった。口髭を生やしたお爺さんと目が合った。優しげな視線がぶつかる。
(130116/更紗さんより)
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2013/01/17 (08:32)
▼ クリームソーダ
幼い私の手を引いて、父はよく街へ出掛けた。昔気質の人だったから、暑くとも夏用の背広をきちんと着込んでいた。リッパな紳士だったのだろう、と思う。私はというと、父の買ってくれるクリームソーダのために、大人しく連れられていた。今でも、雪の浮いた宝石のようなあの飲み物が私はいっとう好きだ。
(130114/更紗さんより)
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2013/01/17 (08:32)
▼ におい
薮の中、蹲る私の鼻は色々の香りを拾う。湿った朝の匂い。浮き立つ花の匂い。揺らぐ土の匂い。何と芳しいのだろう。私は少し重くなった毛に顔を埋めた。ああ、もう少しであの人がやって来る。雑多な食物の匂い、上等の石鹸の匂い、それと若干の薬臭さを引き連れて。私の喉元を、温かい手で撫でるのだ。
(130114/比恋乃さんより)
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2013/01/17 (08:31)
▼ 舟葬
私のたましいは静かに漕ぎ出した。かつて私の体だったものは、白木の小さな舟に乗せられ、穏やかに水面を滑る。氷のような空気を切り、海原へ。もはや櫓などいらぬ。何もかも還るのだ、母なる海へ。するするとただ舟は進む。弔われるために。生まれ直すために。また再び会える時まで、旅路は続くのだ。
(130112)
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2013/01/17 (08:30)
▼ 木葬
水を吸い上げるが如く、僕のたましいは枝葉の隅々まで分散した。もっと高みへ。脈打つ鼓動に乗せて、僕の細かな自我は幹の凡てに行き渡ったらしい。僕の体はとっくに蠢く根と混じり合い、薄紅色の花に溶け合った。どんなに美しいだろう。誰もが新しい僕を見て感嘆するのだ。かつての僕など忘れ去って。
(130112)
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2013/01/17 (08:30)
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