140字SSまとめ | ナノ
Diary

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 花葬
むせ返る程甘い香りがした。額からつるりと僕のたましいは抜け出して、だらしなく弛緩した僕の体の傍らへ立った。僕を溺れさせるように、男は花を棺へ詰める。忌ま忌ましい因縁が蔓のように、僕の体を這っている気がした。そんなに飾り立てた所で君の殺した僕は帰って来ないよ、と笑顔で伝えたい。

(130109/「美しい死」)


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2013/01/13 (10:36)


 水葬
ごぼごぼ、と泡立つ音がした。私のたましいはもうとっくに乖離して、海月のように空を漂う。眼下に見えるのは、私。花に囲まれ、水面にたゆたう私の体は、ゆらゆらと不安定。だってあれは空っぽの器だもの。あの人の無骨な指が私の頬をなぞる。莫迦な人。人形しか愛でられないから、私を沈めるなんて。

(130109/「美しい死」)


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2013/01/13 (10:36)


 悲劇
悲劇を!もっと一級の悲劇を!――彼の紳士は、血を吐く如き声でそう叫んだ。かつて貧困の中で、戦争の中で、そして大いなる悲しみに沈み、彼は悲劇を描いてきた。しかし、今や彼は幸福で、甘く柔らかなそれに骨までしゃぶり尽くされてしまった。もうペンは動かない。言わば彼は、悲劇の残滓であった。

(130109)


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2013/01/13 (10:34)


 黒猫
吾輩は黒猫、名は無い。そんなものには縛られぬ。人のように窮屈でなく、この身一つで浮世を行ける。喜びだの悲しみだの、そんなちっぽけなことで惑わされたりはしないのだ。人間達よ、知らないだろう。塀の上から眺める世界、艶やかなこの自慢の毛並み、猫に許された贅沢を。自由とはこういうことさ。

(130108/更紗さんより)


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2013/01/13 (10:33)


 サボタージュ
彼女は屋上で、雲を数えている。彼女を授業へと連れ戻しに来た僕には全く気付いていないようだ。ぼんやりとした横顔、少し可愛いなあと思う。風が吹いて、ようやく彼女が振り向いた。あ、笑ってる。君も空が好きなの?だって。つられて僕も笑う。今はそういうことにしておこう。僕もそんな気分だ。

(130108/幽より)


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2013/01/13 (10:33)


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