半年後の蝉


「つーむぎ」
「至くん、どうしたの?」


昼下がり、いやもうおやつかな、って時間帯にゆっくり起き出してきた俺。
今日は徹夜でゲームをしたあとの休日だ。

紬は中庭の手入れをしていて、その丸い後頭部に声をかける。振り向いた紬の頬には土汚れがついていて、こういうところ、この人本当に可愛いよな、と寝起きであまり回らない頭で考える。


「いや、俺の職場の同期に紬の高校の時の知り合いがいてさ。この前の公演見てすっごいよかったって褒めてたよ」
「えっ、嬉しいなぁ。でも至くんの同期ってことはひとつ下?後輩にそんなに仲がいい子いたっけ、俺」
「んー、あー、確か留学して大学在学期間一年多いから紬と同じ代、のはず」
「そっかぁ。誰?」
「名字名前。覚えてる?」


名前を聞いた紬の表情が分かりやすく明るくなる。

「名字さん!懐かしいなぁ」
「あ、結構仲良かった感じ?」
「うん。女子のなかではダントツ」
「へぇ、ちょっと意外」
「そう?」
「紬って演劇演劇演劇丞丞演劇、みたいな学生時代送ってそうなイメージあって、女子と仲良かったんだ…って」
「あはは、否定できない。でも名字さんは部活同期だから」
「そういえばそんな話聞いたかも」
「部活をまとめるのとか上手だったんだよ」
「今では社内で、同期きっての期待株」
「えっ!それはすごいね」


紬の反応から、名字と紬は当時かなり仲が良かったことが伺える。


「連絡、今はとってないんだね」
「そうなんだよね。高校卒業してからは全く。名字さん、同窓会も来てなかった気がする」
「連絡すればいいのに」
「連絡先知らないから。俺ほら、機械扱うの苦手だから、そもそも交換してない」
「勿体ない」
「そうだよね」
「俺持ってるよ、名字のLIME。あげよっか?」
「ええっ、そんな、人の連絡先を勝手にもらっていいものかな」
「紬だし大丈夫だよ」
「えぇ…?」


そういいながら自分のスマホを取り出す紬。俺もスマホでLIMEを開き、紬のトーク画面に名字の連絡先を共有する。
紬のスマホに横から手を出してそれを追加し、トーク画面を開き、勝手に『至くんから連絡先を聞きました。紬です。』と打ち込む。


「わ、すごい至くん。ありがとう」
「うん、どうせ紬は自分じゃできないもんね」
「あはは…これでも頑張ってるんだけどなぁ」


最近できるようになったんだよ!と嬉しそうにしながら絵文字選択画面を開いた紬は、文末ににっこり笑った絵文字を添付してから送信を押した。



あー、なんだかひとつ善行を積んだ気分。今ならガチャ神引きできる気がする。

紬と別れて、ブランチを頂くためにキッチンへ向かった。
あー、名字、丞とも知り合いって言ってたけど、丞はいっか。連絡取りたくなったら紬経由でできるでしょ。


たまたま臣シェフがいたので、豪華なブランチを用意してもらえることになって、その完成を待つ間にガチャを回した。


R、R、R、R、R、SR、R、R、R、R


え…?ドブ………


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