然るべきブルーに然るべきピンクを


今日は朝からポカポカと気持ちが良くて、気が向いたのでシーツを洗って布団を干した。ベランダではシャクナゲが堂々と美しい花を咲かせていて、さすが「高嶺の花」の語源となった花だけある、と感心。

ふとベッド脇のサイドテーブルに、買ったけど忙しくて最初の数ページしか読んでないハードカバーが置いてあるのが目に入った。
そうだ、今日はお散歩がてら新しいカフェを見つけに出かけて、そこでゆっくり本を読もう。
思い描く理想の休日、って感じがして心躍る。
早速着替えて、本と少しの荷物をカバンにつめて歩きやすいスニーカーを履いた。

「いってきまーす」

ひとりの部屋に響く声は、我ながら少し弾んで聞こえた。



会社までの定期で行ける駅から、オシャレで落ち着いたカフェがありそうな駅をフィーリングで選んで、そこで電車を下りる。

紫外線を気にして日傘をさしているが、肌に感じる空気はぽかぽかと暖かい。
ほんとうにいい日だ。
道端の植え込みにはロベリアが咲いている。
ロベリア、いいなぁ。うちでも育てたいなぁ。ベランダがもう少し広かったらいいのに。

しばらく歩くと、コーヒーのいい香りがして立ち止まる。静かな喫茶店といった佇まいで、外に出ている看板には本日のオススメ「プリンアラモード」とある。

「プリン…」

涎がでてくるのを飲み込んで、今日のカフェはここに決めた、と扉を開ける。


からんからん、と小さな鐘がなって、バイトのお姉さんがいらっしゃいませと声をかけてくれた。
お店の奥、2人がけテーブル席のソファ側に座って、メニューに目を通す。
オススメらしいプリンアラモードも素敵だけど、いちごのパンケーキもとっても美味しそう。どうしようかな、と迷ったけどここはオススメを食べておこうとプリンに決めてブレンドコーヒーも一緒に注文した。



ふう、と一息ついて本を開く。しばらくすると運ばれてきたコーヒーとプリン、一度本を閉じて、ゆっくりとプリンを堪能する。
このホイップクリーム、ちゃんと動物性の味がする。
コクのある生クリームと甘いチェリー、ほろ苦いカラメルと卵の風味がしっかりとしたプリン。

「おいしい…」

ため息をつきながら幸せに酔いしれていたらすぐに完食してしまった。コーヒーをひとくち飲んで、また本を開く。


コーヒーを飲み終わって、本のページは半分ほどまで進んだころ、集中が切れたタイミングでお店の扉の鐘がからんからんと鳴った。
ふと視線をやると、高校生くらいだろうか、でもそれにしては大人びた雰囲気の男の子が入ってきて、その後ろに紬くんの姿が見えた。
びっくり。

驚いて見つめていたら、紬くんも気がついたみたいで、目をまん丸にしていた。たまたま私の隣の席に案内されたから声をかける。


「紬くん、偶然だね」

一緒にいた男の子がこちらを不思議そうに見てくる。

「ほんとだ、名字さんに会うなんてね」
「紬さん、知り合い?」
「うん。高校のときの部活の同期。今は至くんと同じ会社で働いてて、カンパニーの劇も観に来てくれてるんだよ」
「へぇ。俺は摂津万里、高校三年、紬さんと同じMANKAIカンパニー所属で秋組っす」
「名字名前です〜どうも」
「至さんの同僚ってことは、少し前に、やたら豪華なお菓子のお土産カンパニーにくれてた人?」
「わ、そうですそうです、やだ認知されてた」


高校生。
髪の毛がモカブラウンっていうのかな、ふんわりとした色に染めてあってしかも大人びてるから、大学生かなぁなんて思ったけど。
しっかし顔立ちも整ってるし、これはまたモテそうな感じだこと。


「名字さんは何頼んだの?」
「ブレンドコーヒーとプリンアラモード!プリンすっごく良かったよ〜」
「そうなんだ、俺も食べようかなぁ」
「プリンアラモードとか、兵頭が好きそう」
「あはは、万里くん嫌そうな顔」
「あいつのせいで甘い物見るだけで嫌な気持ちになる」


摂津くん、兵頭くんって人のことは知らないけど、甘い物で嫌な気持ちになるとか人生損してるなぁ。

軽くお喋りをしてから私はまた読書に戻って、日が傾きかける頃にお店を出た。お布団とシーツを干しっぱなしだから、帰って取り込まなきゃいけない。


紬くんと摂津くんに挨拶してからお会計を済ませてお店をでた。


その日の夜は、ふかふかのお布団にお日様の匂いのシーツにつつまれて、今日はいい日だった…と幸せな気持ちで眠りにつくことができた。




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