すれ違い通信


「紬おかえり」
「至くん、ただいま」

外の寒さのせいか、それとも酔っているのか、頬と鼻先が少し赤い紬が帰ってきた。名字と紬がサシで飲む話は聞いていたから、たぶん酔ったからだと結論付ける。


「ん、なにそれ」

紬が淡いピンクゴールドのような色の紙袋を下げていて、そこから上品な花柄の包装が覗いているのが見えた。

「ああ、これ?」

紬がひょいと紙袋を掲げて見せる。

「名字さんがくれたんだ。出張のお土産だって。お菓子の詰め合わせらしくて、カンパニーのみんなでどうぞって」
「へえ、あっという間に無くなる未来が見える」
「あはは、その前に頂いておかなきゃだね」


名字からのお土産。

今回の出張は結構大変なトラブルの後始末だったから、相当に忙しかったと聞いた。だから、いつもはお土産をたくさん抱えて帰ることに定評のある名字でも、今回の購入品はわずかだった。
それなのに。


「へえ、結構美味しそう」
「しかもとっても綺麗」


意外と大雑把に包装を破いた紬(実はO型だって最初は信じられなかったけど、たまにO型を感じるのが紬の面白いところ)の横からお土産の箱を覗き込むと、華やかなお菓子がたくさん詰められているのが見えた。
クッキーやマドレーヌ、ブッセにチョコレート。ミニカップケーキのようなものまである。


「俺はこれ貰っておこうかな」


紬が小さなホワイトチョコレートの包みを手に取った。
残りは箱ごとキッチンカウンターにおいて「お好きにどうぞ」とメモを添えていた。
至くんも好きなの取ってね、と言い残して、紬はお風呂に行った。

それを見送ってお菓子に目を落とす。
紬が取っていったのは、小さな白い花、あまり花には詳しくないけどたぶん水仙の形を模したチョコレート。
俺はどうしようかな、と思って、花柄がレリーフのようにあしらわれたマドレーヌを選んだ。残念ながら花の種類は全くわからない。ほんのり赤みのある生地なので、苺かなにかの味だろうか。



明日は休日、さて、今日も楽しい夜更かしといきますか。

マドレーヌを携えて、冷蔵庫に入れて置いたコーラを引っつかみ自室へ向かう。
部屋にはスナック菓子のストックがたっぷり。スナック菓子にこのマドレーヌは不釣り合いだな、と少し思うが、塩気の中に甘味があるのは非常によろしいことだ。


それにしても。

名字が男とサシで飲みにいく時点で少し驚いたが、わざわざお土産まで用意しているなんて。
邪推してしまうが、時計を見てもまだ日付が変わらない時間帯で、やけに健全な解散時間に引っかかる。



まあ、俺には関係ないことだけどね。

どうせ今感じた引っかかりなんて、ゲームを始めてしまえばすぐに忘れてしまう程度のものなのだ。


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