音もなく首に充てられた長刀。
ひやりとする刀身。
え、何。
この状況は、何。
「答えろ。お前は何者だ。何の目的で俺を助けた?」
「・・・」
「バラされてェのか?」
「言います、言いますけど私だって知りたいです!!」
「・・・チッ」
でた無言の圧力と舌打ち。
この人顔も態度も雰囲気もオーラも超怖い。
浅黒めの肌に痛々しいほどの隈も相まって凶悪感を醸し出している。
この人・・・間違いない、危ない人だ。
「わ、私の名前は、苗字 名前、23歳で私立病院勤務、つい数時間前交通事故にあって、気づいたら意味不明なことに」
「苗字・名前…聞いたことのない響きの名前だ。」
聞いたことないって、ごく普通の日本人の名前だよ!
ありふれてるかは別として、ごく普通だよ!
お前も日本語喋ってんじゃないか!
そして人が話してるうちに割り込んでくんな!
つっこむ所そこだけかよ!!
言いたい事はたくさんあるが、それより知りたい事がある。
「私の自己紹介はしました!貴方は誰でここはどこですか。」
「あ?」
「・・・いや、"あ?"って言われても。」
「トラファルガー・ローだ。」
「とらさん」
「トラファルガー。」
「・・・とらふぁるがーさん」
「・・・」
あー彼がイライラしてるの解る、解るけど聞いたことない名字なんだm・・・え、外人?
じゃぁ名前で呼んじゃったのか失礼こいたかも。
それにしても信じられないような目つきで私を見ている。
「お前、俺を知らないのか」
「知るも何も、初対面じゃないですか。」
「・・・」
ほんと私これ以上トラなんとかさんをイライラさせるのヤメロ・・・!
でも思った事を思った通りに話して何が悪い!
だめだ、本当にトラなんとかさんイライラしてる。
もしかしてキレさせてしまうかも。ヤバい。
あーもうどうにでもなれって気がしてきた。
神様居たら私を助けてー。
「お前、どこの出だ?」
「日本です。ジャパーン。」
「ニホン・・・聞いたことねェな。」
「え、嘘。日本知らない人初めて見た。」
「バラされてえのか」
「すいません、ごめんなさい。」
「それで、そのニホンってのはどの海にある?」
「海?海でいえば日本海と太平洋の間です。」
「・・・知らねェ海だ。」
「はい?」
ああこいつも頭沸いてるのか?
こんな状況でそんな事考えられる私はある意味凄い。
でもそんな事考えた私に罪はない(と思う)。
だって、日本語話してるのに日本海も太平洋も知らないとか笑えないギャグに過ぎない。
「もう一度聞く。お前の目的は何だ。何の能力者だ。」
「知らないです。」
それにしても、何の能力者とか・・・知らんし!
本当の事言ってるだけなのに、なんでこんな目に合わなきゃいけないの。
知らないうちに眉間に皺が寄る。
それをどう解釈したのか解らないが、目の前のトラなんとかさんの怒りに触れたようだ。
チャキリ、と冷たい大刀は音を立てる。
首にあてられていた刀身は下げられたが、それは許されたからではないって事くらいこの場の雰囲気で解る。
けれど、もしかしたら休ませてくれるの?
私の手当てはこの人がしてくれたって言ってた・・・し。
そんな小さな私の希望も、簡単に打ち砕かれることになるだなんて。
「----m」
彼がボソリとつぶやくと、周囲にドーム状のサークルが現れる。
空気の密度が違う、そんな感覚。
まるで"ココ"だけ異次元のような。
彼から発せられる得体の知れない威圧感にたじろぐ。
とても緩慢な動作で、彼は大刀を振った。
「・・・え?」
一瞬の出来事だった。
何が起きたのか理解できない。
ふいに"下半身"の感覚がふわりと浮くような。
そして傾く私の体。崩れるような感覚。
足に、力が…
「う、うああああああああああああああああああ!!!」
私の、私の足が、足が、足が足が足が足が足が!!!
取り乱しパニックに陥る惨めな私を見て、目の前の彼は悠然と笑った。
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こんなはずじゃなかった。(言い訳)
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